株式会社丹青ヒューマネット
TOP > メディア > コラム > 大規模な現場に備えるために、内装施工管理者が知るべき安全対策 労働安全コンサルタントが解説する、「安全衛生管理のための13のヒント」vol.5
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

大規模な現場に備えるために、内装施工管理者が知るべき安全対策 労働安全コンサルタントが解説する、「安全衛生管理のための13のヒント」vol.5

取材・文:堀合俊博 写真:葛西亜理沙 イラスト:イスナデザイン 編集:丹青ヒューマネット
公開日:2023/4/7

労働安全コンサルタントの米澤一夫さんが解説する、空間づくりの現場で働く施工管理者に向けた「安全衛生管理のための13のヒント」。前回の記事では、電動工具を使用する際の注意点や防火対策のためのヒントをご紹介しました。最終回である第5回は、資材の搬出入の運搬に関する安全管理の解説とあわせて、米澤さんの安全衛生管理にかける思いを伺ったインタビューをお届けします。



atam1.jpg

米澤一夫 労働安全コンサルタント・一級建築士 桑沢デザイン研究所を卒業後、丹青社に入社。41年間にわたり制作・設計および統括管理・施工管理の仕事に携わる。2017年より米澤労働安全コンサルタント事務所を立ち上げ、労働安全の専門家として、企業のコンサルティングや安全衛生管理に関する啓蒙活動に取り組んでいる。

12.資材の運搬・移動作業の安全対策

内装工事やディスプレイの施工現場では、現場がはじまったばかりの準備段階や着工時に、資材の搬入や積み下ろしによる災害・事故の発生が多発しています。現場を安全にスタートさせるためにも、資材の搬出入計画や運搬車両の安全対策に力を注ぎましょう。

 

運搬車両による搬出入の注意点

運搬車両による搬出入にあたり、事前準備として必要なのは、運搬可能な時間帯とルートを決めた搬出入計画の作成です。着工前の段階から、現場周辺の道路状況や現場場内の障害物を確認し、車両を迎え入れる準備をしておきます。

車両搬入時には、誘導棒とホイッスルを携帯した誘導者が車両を迎え入れ、運転者は窓をあけて指示を確認します。大型重機や大型車両の場合は運転席からの視界が狭いため、前方と左右に計3名の誘導員を付けましょう。

運転者は当該施設や現場内のルールを遵守し、ハサードランプを点灯させ、時速8km以下で走行するようにしてください。ほかにも基本事項として、現場周辺での車両待機は十分に留意し、道路交通法を遵守した上で歩行者の安全を第一にしてください。

atam1.jpg

敷地内にマンホールがあることをトラテープで表示した写真です。敷地内や建築設備用のマンホールは軽荷重用が多く、対荷重は20〜40kN(約2〜4t)のため、建設機械や大型車両を使用する場合は、マンホールを避けた搬入経路を計画し、合板・鉄板での養生が必要です。

atam1.jpg

停車時の安全対策として、輪止めの使用を徹底しましょう。ロープ付きの輪止めを前輪に使用すれば運転者側から設置確認がしやすく、取り忘れ防止にもなります。

 

台車を使った運搬時の注意点

車両で運び込まれた資材は、台車を使用して各作業場に運ばれていきます。その際の荷崩れによる災害・事故の発生を防ぐために、運搬時の安全ルールを確認しておきましょう。

作業員は、保護帽・作業手袋・安全靴を必ず着用した上で作業に臨み、使用する台車に車輪ストッパーが付いていることを事前に確認します。長さや重量のある積み荷の運搬時には、台車の移動は2名で行い、停車時にはストッパーを2カ所以上かけ、積み荷の状態によっては荷崩れネットやベルトを使用してください。

近年は、「ロールボックスパレット」の転倒による労働災害が頻発しています。作業員は基本となる保護具の着用に加え、脚部にはプロテクターを装着するとさらに良いでしょう。

atam1.jpg

荷台から下ろす際には、必ずテールゲートリフターのストッパーが出ていることを確認し、荷締めのためのラッシングベルトをきちんと固定しましょう。重量のある荷物の場合は、誘導者を含めた2名で移動し、いつでも停車できる移動速度を守ってください。

 

13.重機・作業車の安全対策

中小規模の工事や内装の設計・施行の現場においても、重機(建設機械)を使用する現場が多くなってきました。大型重機や作業車の使用は、安全対策を怠ると重大な災害・事故を引き起こしかねません。内装現場が中心の施工管理者においても、今後の使用場面に備えた安全管理の知識を習得しておきましょう。

建設現場では、各種作業に合わせて重機が使用されます。中小規模で使用される「移動式クレーン」「高所作業車」「フォークリフト」の安全ポイントについて、災害・事故防止の視点から解説していきます。

atam1.jpg

 

移動式クレーン

移動式クレーンの選定にあたり、つり上げ最大荷重および吊り下げ位置、作業半径、敷地境界、隣接建物との離隔や距離を確認しましょう。設置位置については、地盤面の状況のほか、アウトリガー最大張出ができるか、玉掛作業に支障がないかを確認しましょう。

移動式クレーンを使用した作業において、運転者と玉掛を行う作業者は、それぞれ資格習得者である必要があります。玉掛とは、クレーンで資材や荷物に吊り上げワイヤーロープとフックを正しくかける作業のことで、つり荷を落下させない技術を習得した作業員が行わなくてはなりません。

玉掛作業員は、作業に入る前にワイヤーロープの使用前点検を行いましょう。旋回範囲内の立入を禁止するために作業区画を設置し、クレーン作業中は、ワイヤーの異常といった万が一の事態に備え、作業員は決してつり荷の下に入らないようにしてください。なお、強風時にはつり荷が不安定となり危険なため、10分間の平均風速が10m/s以上の場合は作業を中止しなくてはなりません。

 

高所作業車

高所作業車を使用して作業する場合は、高所作業車の機能や能力が作業内容に適切であるかを確認し、操作方法や取扱い上の注意といった機械特性を理解しましょう。高所作業車では、作業床が5mを超える作業となるため、作業員はフルハーネス型の墜落制止用器具を着用し、フックを作業用バケットの手すりにかけて作業に臨みましょう。作業車を移動させる際には、運転者は作業床(作業用バスケット)に作業員がいないことを確認し、場内は時速8km以下で走行するようにしてください。

 

フォークリフト

フォークリフトの使用には使用前点検が必要です。エンジン・作業装置・走行装置・安全装置など、専用の点検項目に沿って確認作業を行いましょう。場内の移動時はつり荷によって視界が遮られるため、かならず誘導者を付けて時速8km以下で走行してください。停車時に運転者が運転位置から離れる場合は、ブレーキをかけてエンジンを停止し、鍵を抜くことを徹底しましょう。

 

重機の運転・作業に必要な免許・技能講習・特別教育

重機・作業車の運転や作業に必要な資格について説明します。移動式クレーンをはじめ、玉掛作業者、高所作業車・フォークリフトの運転者は、それぞれ基準によって免許や技能講習・特別教育の実施が必要になります。施工管理者は新規入場者教育の際に、免許証や技能講習・特別教育の資格証を確認し、作業時にも携帯するようにしてください。

atam1.jpg

各作業に必要な免許・技能講習・特別教育の一覧

 

「空間づくり業界の安全向上のために」
労働安全コンサルタント 米澤一夫さん インタビュー

全5回にわたってご紹介してきた「安全衛生管理のための13のヒント」。解説者である米澤一夫さんに、これまでのキャリアと安全衛生管理にかける思いをお話しいただきました。

 

ディスプレイや店舗への憧れから、空間づくりの世界へ

私が空間づくりの世界に入ったのは、社会人になってから桑沢デザイン研究所でデザインを学び、丹青社に入社したことが最初でした。もともと私は工業高校で化学を学び、卒業後は産業施設の設計会社にて、製鉄所の溶鉱炉の改修設計に携わっていました。しかしながら、産業設備の仕事は人の目には触れませんし、どんな仕事なのかを一般の方に説明するのが難しい。そんななか、街中のディスプレイや店舗のデザイン・設計の仕事が格好良く思えたんですね。私は小さいころから絵を描くことが好きだったこともあり、桑沢デザイン研究所でデザインを学ぶことを決めたんです。

在学中ではスペースデザインを専攻し、卒業後は丹青社にて、専門店の設計と施工を行う部門に所属しました。当初は設計の仕事を希望していたのですが、実際に店舗で施工技術の知識を身につけるために現場での仕事に携わり、施工管理を行うことが多くなりました。

当時はおもにファッションなどの専門店を担当し、経験を積むにつれて複合商業施設内の複数の店舗や、ホテル施設、国際的な博覧会など、大型プロジェクトの設計・施工現場に携わるようになりました。その後安全衛生管理・品質管理を行う専門部門へ配属になり、各部門の安全衛生管理を横断的に見ていく仕事や、「災害・事故ゼロ」の目標を実現するための情報発信に携わりました。

2017年に株式会社丹青社を定年退職してからは、労働安全コンサルタントの有資格者として、専門の事務所を立ち上げました。長年にわたって空間づくりの業界には大変お世話になったので、41年間の経験を通じて培った知識と技術を活かし、この業界の労働安全衛生の水準を少しでも高めていきたいと考えています。

当初設計者を目指していた私が、現在労働安全の専門家として仕事をしている理由として、実に恥ずかしいことですが、過去に関わった現場においてトラブルが発生してしまったことがあります。幸い大事にはいたりませんでしたが、その時の経験は大きく、安全衛生管理の大切さを痛感しました。当時の思いを胸に、現在も労働安全コンサルティングの仕事に携わっています。

 

安全衛生管理は、ものづくりのおもしろさを感じるため

山本五十六の言葉に、「やってみて 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」という名言があります。安全衛生管理の現場では、私はいつもこの言葉を心がけ、職人や作業員の方の良いところを探し、褒めるようにしています。

毎日の安全朝礼や安全パトロールでは、安全衛生管理の立場として、現場の不十分なところを指摘する場面が多々あると思います。しかしながら、注意された作業員の側からすると、これまでの経験で怪我をしなかったのだから、安全について言われた時だけ直せばいいという意識になってしまいます。施工管理者は指導する立場として、まずは作業員を褒め、さらに良くなるためのアドバイスとして伝えることで、作業員たちの姿勢や、安全に対する意識も変わっていきます。

本コラムを通してお伝えしたいことは、作業現場での災害・事故の危険リスクは、正しい安全衛生管理を行うことで、確実に軽減できるということです。施工管理者の方には、妥協することなく安全衛生管理活動を続けていただきたいと思います。

施工管理者の仕事は、ものづくりの醍醐味が感じられる仕事であり、自分が関わったお店がオープンする達成感やお客様からの感謝の言葉は、何にも変え難い感動と喜びがあります。私の使命は、施工管理にたずさわる方に労働安全のための必要な知識と情報を伝え、空間づくりのおもしろさを感じていただくことだと考えています。これからもコンサルタントの活動を通して、空間づくり業界の労働安全衛生の向上に貢献していきたいと思います。

 

安全衛生管理コラム 最終回に寄せて

労働安全コンサルタントの米澤氏へインタビューを行い、その内容をまとめた「安全衛生管理のための13のヒント」を5回シリーズでお送りしました。

空間づくりにおいて「安全」は基本であり、その上で仕事は進みます。第1回は安全の基本の定義をはじめ、現場の安全衛生管理について解説しています。「4つの管理」「安全施工サイクルの実施」などの基本を振り返ると同時に、安全パトロールの視点などをお話いただきました。

第2回では、法令やリスクアセスメントの考え方についてまとめています。「労働安全衛生法」は施工管理者の指針であり、段取り八分と言われるように、リスクアセスメントは着工前の準備として欠かせません。あわせて、作業員の情報確認、現場の安全環境整備についても解説いただきました。

第3回は「墜落・転落」事故の防止についてお話を伺いました。保護具の正しい着用方法や作業台・作業足場の選び方など、正しく装着、正しく選定することの大切さを再度確認できます。

第4回では施工現場の防火対策と、正しい電動工具の使い方について解説いただいています。事前の点検、ルールを守ることこそが安全につながることがわかります。

第5回の本記事では、資材の運搬・移動作業の安全対策や重機・作業者の安全対策についてお話いただきました。免許の取得や技能講習、特別教育などを経て、はじめて実施が可能となる作業があります。作業手順や理論を知り、安全性の向上につながるきっかけにしていただければと思います。

本連載を通して、「しまった、遅かった」「あの時やっていればよかった」と後悔することのないように、知識を身に付けることに加え、作業員の方々を安全行動の実施へと導くことが大切だと改めて感じました。

現場を担う施工管理者の方々に、安全について考えていただく機会になれば幸いです。


株式会社丹青ヒューマネット

代表取締役 石畑 和恵

 

 

株式会社丹青ヒューマネットは、「働く人を応援し、幸せになる」をミッションとし、建築・インテイリア業界へ人材を輩出しています。人材のことで課題をお持ちの企業様、新しい働き方をお探しの方はこちらへご連絡ください。

お問い合わせフォーム 

 

> 丹青ヒューマネット 新卒採用ページ
   エントリーを受付けています。 既卒者も歓迎。 

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

 

求人情報