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施工管理者が知るべき法令と、リスクアセスメントの考え方 労働安全コンサルタントが解説する、「安全衛生管理のための13のヒント」vol.2

取材・文:堀合俊博 写真:葛西亜理沙 イラスト:イスナデザイン 編集:丹青ヒューマネット
公開日:2023/2/15

労働安全コンサルタントの米澤一夫さんが解説する、空間づくりの現場で働く施工管理者に向けた全5回シリーズの「安全衛生管理のための13のヒント」。前回は、施工管理における「安全」の定義をはじめ、安全・衛生管理のファーストステップとなるヒントをご紹介しました。第2回の本記事では、施工管理者の仕事と関わりの深い「労働安全衛生法」について解説しながら、施工現場におけるリスクと対策について解説していきます。



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米澤一夫 労働安全コンサルタント・一級建築士 桑沢デザイン研究所を卒業後、丹青社に入社。41年間にわたり制作・設計および統括管理・施工管理の仕事に携わる。2017年より米澤労働安全コンサルタント事務所を立ち上げ、労働安全の専門家として、企業のコンサルティングや安全衛生管理に関する啓蒙活動に取り組んでいる。

施工管理者の指針となる「労働安全衛生法」

厚生労働省が定める「労働安全衛生法」およびその関連法令では、安全管理に関する取り組みの責任は各事業者にあると定められています。施工現場の場合、発注者からの依頼を受けた「元方(もとかた)事業者」がその中心となります。施工管理者は、複数の下請会社が関わる施工現場の統括管理者として、安全衛生管理のための業務を遂行することが法令で義務付けられているのです。

施工管理者にとって「労働安全衛生法」およびその関連法令は、安全管理の指針となる法律です。現場の安全を監督するプロフェッショナルとして、施工管理者はこれらの内容についての理解を深めておきましょう。

 

4.着工前のリスクアセスメント

着工前の準備段階として、施工管理者は現場の安全管理の対策として「リスクアセスメント」に取り組む必要があります。

リスクアセスメントとは、施工現場で起こりうる災害や事故の要因となる「危険性および有害性」の特定と洗い出しを行い、そこに潜むリスクの大きさを見積ることで、リスクの低減や除去を行う一連の手順のことをいいます。「重篤度」と「可能性」の視点からそれぞれの「リスクレベル」を数値化することで、レベルの高いものから優先的に、リスクレベル低減のための対策を検討していきます。

「重篤度」とは、災害や健康障害による生命の危機につながるリスクの度合いの指標であり、「可能性」は、災害や健康障害が発生する確率を意味します。それぞれ3段階で評定し、重篤度と可能性のレベルを加算することで、施工現場のリスクレベルの数値を見積ることができます。

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「重篤度」と「可能性」の見積表。内容によってそれぞれ3段階で見積もります。

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(上)「重篤度」と「可能性」の加算法によるリスクの見積表。それぞれ3段階で見積もった点数を加算し、リスクレベル(RL1~5)を導き出します。
(下)リスクレベルの判定とその対策をまとめたもの。リスク低減措置を通して、最終的にはRL2もしくは1を目指す必要があります。

施工管理者は、現場に入る前に想定しうるあらゆるリスクを抽出し、それらを低減するための措置を事前に行わなくてはなりません。図面確認はもちろん、現場で行われる各作業のスケジュールの確認や、必要な設備・備品の手配、安全のためのルールの策定を実施し、リスクレベルの低減に取り組みましょう。

なお、リスクの低減措置には優先順位が定められています。工法の選択といった設計・施工計画の見直しによる「リスクの除去」から、安全ガードや安全装置を設置する「リスクの隔離」、作業手順書・マニュアルの整備や立入禁止場所を設定する「リスクの回避1」、作業員に保護具の使用を義務付ける「リスクの回避2」まで、除去できなかった「危険性および有害性」について、順に低減措置を検討・実施していきましょう。

なかでも個人保護具の使用は、作業員にとって安全の最後の砦であるため、作業に応じた保護具を着装を徹底させてください。

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リスク低減措置における検討・実施優先順位図

 

災害・事故の発生しやすい「混在作業」

さまざま業種の作業が行われる施工現場において、複数の作業が一箇所で行われる「混在作業」の発生は、災害・事故の原因となります。たとえば、電気配線工事を行う作業員の上で設備工事などの高所作業が行われる場合、思わぬ落下物による災害の可能性が生じます。着工前や作業前に工程計画の調整を図り、災害・事故の発生を防ぐスケジュールを策定しましょう。

 

5.作業員の情報確認

元方事業者のうち、建設業および造船業を行う事業者のことを「特定元方事業者」といいます。建設業では、ひとつの現場において、発注者からの依頼を受けた元請負会社だけではなく、複数の下請負会社が作業を行う場合、「特定元方事業者」は現場の大小に関係なく、労働安全衛生法に基づいた統括管理を行うことが義務付けられています。

統括管理者の仕事としては、現場の安全環境を整備することはもちろん、現場に臨む作業員たちの健康状況を、着工前に確認しておかなければなりません。前回の記事で解説した新規入場者教育の際に新規作業員の情報を取得し、「新規入場就労報告書」を作成の上、施工体制台帳として管理しましょう。なお、近年はWebサービスを利用した施工体制台帳のデータベース化が進んでいるため、適宜導入を検討してください。

 

健康状態・加入保険・作業資格の確認

「新規入場者教育」では、作業員の基礎情報として、所属会社をはじめ健康状態や保険への加入状況を確認していきます。まずは作業員の健康状態を把握するために、雇入れ時の健康診断や、年に1度の定期健康診断が実施されているかを確認しましょう。なかでも有機溶剤やアーク溶接、石綿(=アスベスト)を扱う作業員がいる場合、それぞれに対応した特殊健康診断の実施が必要となります。

労災保険・社会保険への加入状況も確認が必要です。個人事業主などの「一人親方」や「中小企業の事業主」の場合、労働基準法においては労働者に該当しませんが、特別加入制度によって労働災害保険に加入することができます。施工管理者は、加入していない作業員の勤務自体を禁じていますので、必ず確認するようにしてください。

また、施工現場では作業の種類によっては専門の免許や技能講習・特別教育の実施が義務付けられています。各作業員の担当業務に必要な免許証や特別教育・講習修了証を携帯しているか、新規入場者教育で確認しておきましょう。その他、外国人労働者、18歳未満の年少者、高年齢者の就労確認も必要です。

 

6.安全環境の整備

災害・事故の要因となる「物的条件」「人的条件」

作業現場における災害・事故の発生には、「物的条件」と「人的条件」のふたつの要因があげられます。「物的条件」とは、手すりが外されている足場や、現場内の床に墜落や転倒の恐れがある開口部があるなど、危険性のある状態のことをいい、「人的条件」は、現場のルールや規則を守らない作業員の行動によって引き起こされます。これら2つの条件が揃うことで、施工現場に重大な事故・災害が引き起こされる可能性が高くなります。

「人的条件」は、前回の記事で紹介した安全パトロールによって改善することができます。着工前の段階で施工管理者が取り組むべきことは、「物的条件」を除去によって実現する「安全環境」の整備と送り出し教育による作業員への安全作業の指導です。

 

安全環境のための「仮設計画」

施工管理者が着工前に行う「仮設計画」とは、現場作業を滞りなく安全に遂行するための環境を整備する計画のことを意味します。高所作業用の足場をはじめ、仮設工事用LED照明の設置、事務所や休憩所、喫煙所、トイレ、作業区画、立入禁止区画など、作業中の災害・事故を防ぐための環境を整えていきます。現場が推進するに従い、必要に応じて環境を見直す習慣も必要です。

同様に、仮設計画では「火気厳禁」「安全第一」「整理整頓」「安全帯使用」などの「安全標識」を、現場内の各所に掲示しましょう。「安全標識」とは、現場で実施されている安全への取り組みを伝える掲示物であり、作業員の目に入りやすい場所に掲出することは、安全に対する現場の意識の維持につながります。

作業場の防火対策として重要なのが、消火器と防火用水の設置です。防火対象物(火元になる恐れのもの)から歩行距離で20m以下の間隔で設置し、目の高さ程度の場所に消火器の安全標識を掲示してください。

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火気を使用する作業場所では、防火対象物(火元)から20m以下間隔で消火器を設置することが定められています。防火用水も消火器と共に設置しましょう。(参考:> 日本消火器工業会「消火器の設置義務」

 

夏場の熱中症予防および対策

4月中旬から10月中旬にかけて実施される作業現場では、施工管理者は熱中症の予防と対策に注力する必要があります。施工管理者は、環境省が提唱する「暑さ指数=WBGT*」の測定器を携帯し、厚生労働省が定める高い基準値が測定された場合、作業を一時中止するなどの低減対策をとってください。

*暑さ指数(Wet Bulb Globe Temperature湿球黒球温度湿度)

熱中症の予防を目的に設定さている指標 WBGT測定器と同様に、熱中症の疑いがある作業員の応急処理のために、「経口補水液」「冷却材」「タオル」「塩飴」などの備品を現場に設置する必要があります。室内に換気用の扇風機やサーキュレーター、送風機などを配置し、作業員に対して60分間隔を目安とした「クールスポット」での定期的な休憩と、水分および塩分補給(塩飴)を徹底させます。

熱中症が疑われる作業員を見つけた際には、すみやかに涼しい場所に移動させ、経口補水液などで水分補給をさせてください。自力で水が飲めない、もしくは作業員の意識がない場合はためらわずに救急車を呼び、到着するまでのあいだ、冷却材を包んだタオルで首・わきの下・太ももの付け根を集中的に冷やします。施工管理者は、現場の衛生管理の責任者として、厚生労働省が提示する応急処置のフローについて理解しておきましょう。

次回は、建設業における災害・事故のデータから、高所作業時の安全管理のためのヒントを解説します。

 

関連情報:
> 厚生労働省「安全・衛生」
> 建築業労働災害防止協会(建災防)のホームページ
> 職場の安全サイト「特殊健康診断」 厚生労働省ホームページ
> 一般社団法人 日本消火器工業会「消火器の設置義務」

 

 

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