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施工現場の「墜落・転落」事故を防ぐには? 労働安全コンサルタントが解説する、「安全衛生管理のための13のヒント」vol.3

取材・文:堀合俊博 写真:葛西亜理沙 イラスト:イスナデザイン 編集:丹青ヒューマネット
公開日:2023/2/24

労働安全コンサルタントの米澤一夫さんが解説する、空間づくりの現場で働く施工管理者に向けた全5回シリーズの「安全衛生管理のための13のヒント」。前回は、「労働安全衛生法」の解説から、リスクマネジメントに関するヒントをご紹介しました。第3回の本記事では、建設業における災害・事故のデータを通して、高所作業時の安全管理について考えていきます。



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米澤一夫 労働安全コンサルタント・一級建築士 桑沢デザイン研究所を卒業後、丹青社に入社。41年間にわたり制作・設計および統括管理・施工管理の仕事に携わる。2017年より米澤労働安全コンサルタント事務所を立ち上げ、労働安全の専門家として、企業のコンサルティングや安全衛生管理に関する啓蒙活動に取り組んでいる。

7.墜落・転落による災害発生状況

施工管理者が掲げる「災害・事故ゼロ」の目標達成ために、私たち建設業における災害・事故発生状況を把握することは、日々の安全衛生管理に取り組む上での現状認識につながります。ここでは、現在発表されている具体的なデータを見ていきましょう。

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厚生労働省が発表している> 「令和3年労働災害発生状況」

厚生労働省による令和3年の「労働災害発生状況」をみると、昭和47年の労働安全衛生法の施行以来、死傷者と死亡者の数は長期的に減少傾向にあります。前回の記事では、施工管理者にとって指針となる労働安全衛生法およびその関連法令について紹介しましたが、このデータから、法律による労働安全対策の推進がいかに現場の安全に寄与してきたのかがわかります。

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令和3年の建設業の死傷者数および死亡者数(出典:同上)

近年の数値を見てみましょう。独立行政法人労働政策研究・研究機構の調査による令和3年のデータでは、全産業の雇用者が5973万人に対して、建築業の雇用者数は393万人と、わずか6.8%です。しかしながら、全産業の死傷者数が約15万人、死亡者数が867人であるのに対し、建設業の死傷者数は約1.6万人、死亡者数は288人までにのぼり、それぞれ全体の10.7%と33.2%を占めています。これらの数値は、全産業の中でも建設業が危険性の高い業界だということをものがたっています。

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令和3年の建設業における事故の型別(出典:同上)

死傷者・死亡者の発生状況のデータをみると、令和3年の死亡災害発生状況のうち、もっとも死亡者数の多い災害・事故の種類は、38.2%の割合を占める「墜落・転落」です。死傷者数のデータにおいても「墜落・転落」がもっとも多く、30.3%を記録しています。

これらのデータを通じて業界の現状を把握することは、これからの安全・労働管理について考えるための第一歩につながります。本コラムをきっかけに、建設業における安全水準の向上の担い手となる施工管理者が増えることを願っています。

 

8.施工作業の高さに合った作業台・作業足場の選び方

前項で触れた墜落・転倒事故を防止するためにも、施工作業の高さに合った適切な作業台・作業足場の選択こそが、安全管理の要となります。施工現場における施工作業の高さを正確に把握し、着工前に必要な作業台・作業足場を準備することを実施してください。

労働安全衛生法では、作業床の高さが2mを超える作業を「高所作業」と定めており、現場で使用する作業台・作業足場の種類は、2m未満・2m以上で分けることができます。ここでは代表的なものを紹介します。

 

2m未満で使用する作業台・作業足場の種類

◯作業用踏台(0.3m〜0.6m程度)
手の届かない場所の作業で使用する「作業用踏台」は、持ち運びが可能なもっとも手軽な作業台です。代表的な製品である日本セイフティー株式会社の「ステップキューブ」は、キューブ型の踏台を積み重ねたり組み合わせることで、高さの調整ができます。なお、他の足場の上に乗せての使用は危険ですので禁止してください。

◯脚立(〜1.8m)
2m未満の作業においてもっとも使用頻度が多いのが「脚立」です。作業中に不安定になることが多いので、可能な限り補助者が支えた上で使用するようにしてください。仮設工業会の認定品を必ず使用し、一般的に流通している2m以上の高さの製品は、非認定品のため使用を避けましょう。

◯可搬式作業台(〜2m未満)
「立馬」と呼ばれる「可搬式作業台」は、脚立よりも安全性の高い足場のため、最初に2m未満の足場を設置するときに選択して使用するようにしましょう。使用時には水平な場所での設置を心がけ、手掛かり棒は手すりではないので、体重をかけると転倒の可能性があり、注意が必要です。なお、作業床の幅が400mm以上の仮設工業会認定品であることを確認してください。

◯移動式室内足場
折りたたみ式の「移動式室内足場」は、作業床を連続設置することで足場の広さを確保できる作業台で、「作業ステージ」と呼ばれることもあります。連続設置の際には作業床同士の隙間が3cm以下になるように留意し、手すりと昇降階段をかならず設置するようにしてください。

 

2m以上で使用する作業台・作業足場の種類

◯可搬式作業台(2〜3m)
立馬と同様、可搬式作業台に属するものの中でも、2m以上の高所作業においては、GOP株式会社の「アンドロメダ」などに代表される製品を使用します。折りたたみ式で持ち運びやすく、天板と補助手掛かりが備わっているのが特徴です。他の可搬式作業台と同じように、作業時には脚部を支える補助者を付けるとさらに良いでしょう。

◯高所作業台(2〜4m)
「アップスター」と呼ばれる高所作業台は、垂直に組立てて高さを調節し、天井などの作業時に使用します。組み立て時には転倒防止用のアウトリガーを設置し、足場を安定させてから使用しましょう。

◯移動式足場(2〜6.6m)
「ローリングタワー」と呼ばれる移動式足場は、キャスター付きのため折りたたまずにそのまま移動することができます。アウトリガーや昇降用の内階段があるモデルを使用し、高所作業に高さ合わせた正しい製品を使用することを心がけましょう。なお、作業員を乗せたまま移動することは危険なので禁止です。

◯単管本足場・枠組足場・くさび緊結足場など(〜45m)
近年は内装をおもに担当する空間デザイン会社においても、外装工事を行う大規模な現場を手がけるケースが増えてきました。外装工事などで使用する代表的な作業足場には「単管本足場」や「枠組み足場」、「くさび緊結足場」などがあり、着工前の仮設計画時に仮設足場計画を策定し、安全対策を実施しましょう。

これらの高所作業足場の使用にあたって気をつけなくてはならないのは、組み立ておよび解体時の墜落・転倒といった事故・災害の発生です。厚生労働省はこれらを防止するために> 「手すり先行工法に関するガイドライン」を策定しており、足場の組立・解体・変更作業に臨む作業員には特別教育の実施を定めています。

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アップスター(高所作業台)の上部手すりに「安全ブロック」を設置した様子。安全ブロックとは、ロック機能のある自動巻取リールに安全ロープが巻かれたもので、昇降時に足を踏み外した場合、ロープが高速で引っ張られることでロックが作動し、墜落を防止します。

作業台・作業足場からの垂直昇降時、タラップから足を踏み外すことで墜落事故につながる可能性があります。2m以上の高所作業時にはかならず墜落制止用器具(安全帯)を装着し、墜落時にロープがロックされる「安全ブロック」をフックに接続して使用しましょう。なお、作業台の手掛かり棒にフックをかけると、体重をかけた際に転倒してしまうため、天井の吊りボルトや鉄骨の梁、手すり、親綱にかけるようにしてください。

高所作業の高さに応じた作業台・作業足場は、着工前の段階から計画的に準備しておくことが重要です。作業足場の設置期間中は、作業開始前に点検を実施するよう作業員に指導し、墜落・転落による災害・事故の防止に努めましょう。

 

9.保護具の正しい着用方法

前回のリスクアセスメントの項で触れましたが、個人用保護具は、作業員の安全を守る最後の砦です。ここでは、施工現場の基本となる保護具の種類と正しい着用方法を確認していきます。

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◯作業服
作業員が着装する作業服は、長袖・長ズボンのものを使用し、必要に応じて左腕に腕章を身につけましょう。作業服の前ボタンや袖のボタン、ファスナーはきちんと閉め、素肌が出ないように注意してください。なかには半袖のシャツに腕カバーをして作業に臨む方が見受けられますが、腕カバーの間から素肌が出てしまうので禁止しましょう。同じ理由から、靴下はくるぶしが隠れる長さのものを使用してください。

◯保護帽
ヘルメットと呼ばれる「保護帽」は、作業時に外れることがないようにヘッドバンドを頭の大きさに調整し、深く被り、あごひもをしっかりと結んで装着しましょう。夏場の作業時には、保護帽の下に着用できる「汗止めパット」や「吸汗ヘルメットインナー」を使用し、タオルなどを頭に巻かないようにしてください。

保護帽には、「飛来落下用」と「墜落時保護用」がありますが、建設現場では両方適用されたものを使用します。保護帽は丁寧に扱い、帽体の傷・変形や、あごひもの損傷、内側の衝撃吸収ライナーの変形・異常がないか、常に点検するように心がけてください。耐用年数は製造年月から3〜5年と種類によって異なりますが、少しでも異常を見つけた際にはすぐに交換し、交換時期がきたら保護帽の状態にかかわらずかならず交換しましょう。

◯安全靴
先芯に鉄板や硬度なプラスチックが入った安全靴は、現場作業時に指先を守ります。JIS合格品を「安全靴」、JSAA認定品を「プロテクティブスニーカー(プロスニーカー)」と呼び、それぞれ素材と耐久性が異なるため、作業によって使い分けるようにしましょう。また、作業場の状態によっては釘を踏むなどの危険があるため、必要に応じて「踏み抜き防止用中敷き」を使用してください。

◯安全帯(墜落制止用器具)

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2019年の2月に労働安全衛生法施行令が一部改正され、「安全帯」の名称が「墜落制止用器具」に改められました。労働安全衛生法では、労働者に墜落の危険がある高所作業において、相応の性能を有する墜落制止用器具の使用が義務付けられています。

墜落制止用器具には、「フルハーネス型」と「胴ベルト型」の2種類があります。規定では6.75mを超える高所作業ではフルハーネス型の使用が決められていますが、一般的な建設現場ではさらなる安全を考慮し、5mを超える場合にはフルハーネス型を使用しています。

なお、フルハーネス型を使用には「建設業労働災害防止協会」が開催している講習会などの特別教育を受講する必要があります。新規入場者教育の際に、高さ5m以上でのフルハーネス型墜落制止用器具を使用する作業員には特別教育修了証の有無を確認しましょう。

次回は、電気工具や火気使用時の防火対策など、施工現場で安全に道具を使うためのヒントを解説していきます。

 

関連情報:
> 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」
> 建設業労働災害防止協会 「労働災害統計」
> 厚生労働省「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」
> 日本安全帯研究会
> 日本ヘルメット工業会
> 安全靴の基礎知識‐JISとJSAA規格の性能表 | 安全靴・作業靴はミドリ安全フットウェア・安全靴専門メーカー

 

 

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