施工現場の防火対策と、正しい電動工具の使い方 労働安全コンサルタントが解説する、「安全衛生管理のための13のヒント」vol.4
取材・文:堀合俊博 写真:葛西亜理沙 イラスト:イスナデザイン 編集:丹青ヒューマネット
公開日:2023/3/23
労働安全コンサルタントの米澤一夫さんが解説する、空間づくりの現場で働く施工管理者に向けた「安全衛生管理のための13のヒント」。前回の記事では、建設業における災害・事故のデータの紹介から、作業足場等の安全管理のためのヒントをご紹介しました。第4回の今回は、電動工具を使用する際の注意点や防火対策のポイントを解説していきます。
10.電動工具の安全対策
作業現場では、切削・研磨・溶接など、電動工具を使用したさまざまな加工が行われます。
本項では、電動工具を使用する上での安全対策として、仮設準備時に設置する仮設分電盤の注意点や、電動工具の事前点検のポイントについて解説していきます。
仮設分電盤の使用上の注意点
作業現場では、電気工具を使用するための準備として、工事用の仮設分電盤を設置します。仮設分電盤の中には各種類のブレーカー(ELB)が設置されており、作業中の漏電や過電流による災害・事故を防ぐことができます。
仮設分電盤の内部配線やブレーカーは高電圧であり、人との接触による感電の恐れがあるため、かならず扉を閉めてから使用し、周辺に資材を近づけないにしましょう。時折現場では、分電盤の扉や設置スタンドに作業服がかけられていたり、スタンドの上にペットボトルが置かれていたりするのを見かけますが、大変危険な行為のため禁止してください。
仮設分電盤の点検および電線のつなぎ込みは、電気工事士の資格を持った管理責任者が行う必要があります。作業員はあくまでコンセントプラグの差し込みのみを行うようにしましょう。また、ひとつの分電盤から複数の協力会社や作業員が電源を取るため、コードプラグに行先表示として会社名と工具名のタグをつけ、コードプラグの抜き間違い等を防止してください。
なお、コードを延長する際に使用する電工ドラムは、コードが巻かれた状態で使用するとコードが発熱し、火災の原因になるため、かならずすべて巻き出してから使用してください。漏電ブレーカーや温度検知が付いたタイプを使用するとさらに良いでしょう。
電動工具の事前点検
作業現場の電動工具には、二重絶縁構造の2Pタイプと、アースピンの付いた一般的な3Pタイプの2種類があります。二重絶縁構造とは、「基礎絶縁」と呼ばれる絶縁部分が故障した場合の対策として「補助絶縁」が施されていることで、このタイプの工具には「二重絶縁マーク」が表示されています。一般的な電動工具を使用する場合は、かならずアース付の3Pであることを確認し、漏電遮断器付きのプラグコンセントを使用しましょう。
施工管理者は、作業員が現場に持ち込む電動工具を事前に点検してください。安全保護カバーの設置や、工具本体やコードに損傷がないか目視で確認するほか、絶縁抵抗のメガチェックを実施し、工具本体に漏電していないかを確認しましょう。完了後の電動工具は、「点検済みシール」を貼ることで判別します。
なお、最近では充電式工具を使用されることも多くなってきました。充電式工具は二重絶縁構造と同様に危険性が低く、メガチェックをする必要もなくなるため、作業員に使用を推奨するようにしてください。
電動工具に起因する災害・事故は、作業員の怪我だけではなく、漏電が起きた場合には、建物施設の一部が停電を起こし、他の工事を行っているフロアなどにも影響がおよぶ可能性があります。その後の作業計画にも大きな変更が生じるため、工程管理の視点からも注意を怠らないようにしましょう。
11.火気使用時の防火対策
電動工具を使用した作業のなかでも、火花が発生するものは「火気使用作業」と呼ばれ、必要な防火対策を講じなければなりません。作業をはじめる前に現場の可燃物を除去し、火気使用作業の周囲には「作業区画」を設置の上、耐火・防火シートで養生してください。壁面や天井の断熱材等の可燃物の近くで火気使用作業を行う際は、火災の危険があるため、可燃物から十分なスペースを取るなど作業手順・予防対策をきちんと行いましょう。
火元となる作業場所には消火器・防火用水を設置し、作業中は監視員が周辺の安全を確認しましょう。作業終了後は、「残火確認」として約2時間のあいだは、小火(ぼや)が発生しないことを確認します。なお、有機溶剤や化学物質などの可燃性溶剤を扱う作業が火器使用作業と同時期に同じフロアで行われると、爆発や火災といった重大な災害の原因となるため、事前の作業計画の段階でかならず留意するようにしてください。
アーク溶接作業の注意点
火気使用作業の中でもとりわけ危険な作業のひとつに「アーク溶接作業」があります。5,000〜20,000度の熱と同時に1〜数ミクロン程度の大きさの「ヒューム粒子」が発生します。厚生労働省は、「溶接ヒューム」による労働者の健康障害のおそれが明らかになったことから、労働安全衛生法施行および特定化学物質障害予防規則などを改正し、あらたな告示を行いました。令和3年4月1日よりアーク溶接の作業者は、特定化学物質健康診断・じん肺健康診断の実施に加え、専用の防じんマスクを着用することが義務付けられています。
防じんマスクには独自の性能区分が設けられているため、施工管理者は「RL3・RS3・RL2・RS2」の性能レベルのマスクであることを確認しましょう。作業時には、マスクに加えて遮光面や遮光メガネと溶接用革手袋の着用も徹底してください。
火花が生じにくい「無火気工法」
火気使用作業の防火対策について解説してきましたが、現在は作業時に火花がほとんど発生しない電動工具として、チップソーやバンドソーなどが販売されています。これらを使用した作業を「無火気工法」といい、火災リスクの低減のためにも採用することが望ましいです。例えば、高速カッターはチップソーおよびバンドソーに変更して使用しましょう。なお、これはリスクアセスメントについての記事で触れた、リスク低減措置における「リスクの除去」にあたります。
すべての職人が無火気の電動工具を使用しているわけではありませんが、施工管理者は「無火気工法」の知識を身に付け、作業環境に応じて作業員に無火気の電動工具の使用を促すようにしてください。
最終回となる次回は、現場内での運搬や移動における災害・事故の防止に備えるためのヒントを紹介していきます。
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