丹青ヒューマネットの新人研修「失敗から学ぶ、職方の技量と施工管理者の仕事術」
写真:寺島由里佳 取材・文:堀合俊博 編集:丹青ヒューマネット
公開日:2024/8/30
2024年度、丹青ヒューマネットでは9名の新入社員を対象とした研修を実施しました。昨年度は、わたしたちにとって初となる現場研修を群馬県前橋市の企業にご協力いただき実施しましたが、本年度からは独自の研修カリキュラムを企画し、派遣先に配属されるまでの2ヶ月間をかけて座学と現場実習をおこないました。
4月の研修では、施工管理の基礎を学ぶ座学のほか、建材メーカーの工場見学、丹青社のテクニカルセンターや事業開発センターなどから講師を招いた講義を実施しました。また、おなじ丹青社グループである丹青TDCとの合同研修では、主に仮設材の組み立てや養生、墨出し体験といった現場での作業を中心に学びました。
これらのインプットを踏まえ、5月の研修ではアウトプットの場として、内装工事を体験する現場実習を実施しました。当日の現場作業だけではなく、仕上げ材の選定や発注を通して、空間づくりの工程を一通り体験できるカリキュラムを企画しました。
今回、現場実習にオフィスをご提供いただいた株式会社横浜工作所にて、本年度の研修の振り返りをおこないました。新入社員代表2名の視点から語る研修を通じた学びや、研修の企画者2名の視点から語るカリキュラムに込めた思いなど、丹青ヒューマネットの4名による振り返りと、当日の様子をお届けします。
丹青ヒューマネットの新人研修「失敗から学ぶ、職方の技量と施工管理者の仕事術」
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職方の作業が体験できる研修カリキュラム
──本年度の新人研修の企画が生まれた背景について教えてください。
児玉
昨年度、丹青ヒューマネットとしてはじめて新入社員に向けた施工管理の実習をおこないました。その際に前橋の建設会社にご協力いただいたのですが、今年から当社の代表取締役社長が堀内に代わり、自社で研修を企画するのはどうだろうかという話が持ち上がったんです。そこで、昨年は建築施工の現場を見学することができたので、今回は内装工事の施工管理者としての役割と現場で職方たちが担当する工程を、新入社員のみなさんに経験してもらうのがいいんじゃないかと考え、具体的な企画を検討していきました。
岡本
当初はコンテナや大きな倉庫を借りて、なかに軸組を建てて一連の内装工事ができないかと考え、いろいろと探してみたのですが、研修期間中の1、2ヶ月だけといった短期間で借りるのがむずかしく、なかなかちょうどいい場所が見つかりませんでした。
児玉
別のやり方はないかなと考えているときに、堀内社長に丹青社時代にお付き合いのあった横浜工作所をご紹介いただいたんです。早速お電話したところ、「一度見に来てください」とおっしゃっていただき、見学させていただいたのですが、これはよさそうだなと。ご提示いただいたのがやや広めのオフィスだったため、9名の新入社員を5名と4名の2チームに分けて、それぞれ内装工事に取り組んでもらうことにしました。
当初の企画としては、私が図面を書いてレイアウトを決め、必要な資材の発注もこちらで済ませた上で、新入社員のみなさんに現場の作業を体験してもらう企画だったんですが、進めていくうちに、実際に新入社員に仕上げ材の選定をしてもらおうと、内容を変更していったんです。あえて腰壁をつくる計画を立てて、上下を貼り分けるための2種類のクロスを選んでもらい、なぜその配色にしたのか、理由を説明してもらう研修内容も盛り込みました。
──天野さんと青木さんは、新入社員として研修に参加されましたが、入社前から施工管理の仕事に興味はあったのでしょうか?
天野
もともと施工や建築に関心があったわけではないですが、美術に興味があり大学で学んでいたので、就職活動ではおもに展示やエンタメ空間などの設計ができる仕事を探していました。丹青ヒューマネットに入れば大きな空間を手がけられるし、なにより楽しそうだなと思ったのが入社を希望した理由です。
青木
私は大学の授業の中で、空間づくりの授業をきっかけに丹青社の仕事に興味を持つようになりました。その後、丹青社グループの中でインターンシップを実施している企業を探していたところ、丹青ヒューマネットの募集を見つけて参加しました。参加するまではインターンシップに対して堅苦しいイメージを持っていたのですが、想像とは違って親しみやすい印象で、インターンシップを通じて社内の雰囲気が感じられたことが、入社したいと思うきっかけでした。
──もともと施工管理者がどのような仕事なのかは入社前から知っていましたか?
青木
まったく知らなかったです。空間デザインの領域については大学の授業で学んでいましたが、施工管理という仕事自体については、ざっくりとしか理解していませんでした。
天野
おなじく、就職活動で調べるまでまったく知らなかったです。私の場合、現場で手を動かす仕事の方が自分には合っているだろうなと思い、やりたいことを探すなかで見つけたのが施工管理の仕事でした。
──青木さんは、もともとデザインを学んでいたなかで、施工管理者の仕事に就こうと思った理由は何ですか?
青木
最初はデザイナーを目指していましたが、丹青ヒューマネットのインターンシップに参加した際に、児玉さんから施工管理の仕事についてうかがい、現場のことを知らないと実現性のないデザインを提案してしまう恐れがあるということを聞いて、丹青ヒューマネットでゼロから施工管理について勉強したいと思うようになりました。
現場でも起こりうる、発注時の見落としを身をもって体験
──はじめての発注作業を経験してみて、いかがでしたか?
天野
新鮮で楽しめましたし、私たちがメーカーさんとのやり取りをスムーズに進行できるように、児玉さんが事前に調整してくださったので、こちらがメールや電話をした際に、いろいろと汲み取ってご対応いただきました。
児玉
発注に際しては、ある程度どのメーカーさんに相談すればいいのかを事前に教えていたので、丹青社時代からお付き合いのある担当者に事前にお願いし、「うちの新人から問い合わせの電話が入ったら、話を聞いてあげてね」とお伝えしていたんです。
青木
発注の過程で特に印象的だったのが、在庫確認の時に、私たちはメーカーさんに品番を伝えて在庫があるかどうかだけを確認していたんですが、本来はきちんと現場に間に合う場所に在庫があるのかを確認する必要があると、ご担当者に教えていただいたことでした。このことを知らないまま現場に入らなくてよかったなとあらためて思います。
岡本
また、丹青社の事業開発センターで運営している各種建材メーカーの廃番品を安価で購入できるサイト「4earth」を同センターの野本部長に紹介していただき、現場研修にも盛り込もうと課題に加えました。
児玉
他にも、こちらから指摘したことでいえば、1平米900円程度のクロスの中に5,000円以上するクロスが1種類含まれていて、「どうしてこの種類を選んだの?」と私が理由を確認することもありました。メーカーに詳細を確認したところ、扱いが難しい特殊なクロスを選んでいたことがわかったんですが、こういったことは実際の現場でも起こり得ます。柄と色だけで素材を選んでしまい、想定よりも高額になってしまうケースがあるので、そういったことをチェックするのも施工管理の仕事なんだと、今回の経験で学んでもらえたんじゃないかなと思います。
また、発注する際に資材のロスを何%にするかについて考えることも大事で、ギリギリに発注してしまうと職方が失敗できないですし、万が一失敗してしまった場合は現場で作業ができなくなってしまいます。実際にクライアントがいる仕事でそういったことが起きると責任問題になるので、研修の場で事前に失敗してもらい、次から気をつけなきゃという気持ちを刻み込んでもらえれば、私たちとしては今回の研修は大成功かなと思っています。
想定外の事態に対処する、職方の技術力に感動
──仕上げ材の選定プロセスに関してはいかがでしたか?
青木
今回の課題のコンセプトが「ラグジュアリーな空間」だったので、長時間過ごしても苦にならない会議室の内装をいかに仕上げるのかを意識しながら選定していきました。フロア側を暗い配色にし、天井に向けて少しずつ色調を明るくすることで、ゆったりとした雰囲気と同時に引き締まるような空間にできればと考えました。
配色はなんとなくでも決めてしまえるものなので、いざ理由を聞かれたとしても答えられるように、メンバー間できちんと話し合い、発表用の資料の文言をみんなでチェックするようにしていました。お互いの意見をきちんと言い合えるような関係性ができていたので、比較的スムーズに進めることができて、チームのメンバーと一緒に決めていく過程が楽しかったです。
──現場当日の作業で印象的だったことを教えてください。
天野
はじめて経験する作業ばかりだったのでどれも新鮮でした。ボードにビスを打って壁をつくっていく作業は楽しかったですし、壁紙を貼った辺りから一気に空間としての見応えを感じたのがおもしろかったです。
また、実際に壁を剥がしてみたところ、想定していたよりも腐食が進んでしまっていた箇所がありました。石膏ボードに水が染み込んで壁紙が貼れなくなってしまいそうだったので、翌日にボード屋さんに来てもらい、特に腐食しているところを補修してもらいました。ほかにも、一部床のレベルが揃わなくて、予定していた長さのスタッドが入らない箇所があったのですが、その場で職方が解決してくれました。技術にお金を払うってこういうことなんだなと、職方の仕事を見ていて強く思いました。想定外のことが起こった時に、どうすれば解決できるのかを知っているのが職方なんだと、尊敬の念を抱きました。
青木
思い描いていた空間にだんだんと近づいていく過程をみるのはやっぱり楽しかったです。また、今回ローラーで天井の塗装をおこなったのですが、これまでローラーは使ったことがあったので、ある程度はできるだろうと思っていたものの、当日一緒に作業をしていただいた職方から「ここ、ダマになっちゃっているよ」といった指摘を度々受けて、自分が思う仕上がりでは十分ではないことを痛感しました。最終的にお客様に引き渡す空間を仕上げるとなると、誰が見ても完璧な水準まで持っていかないといけないですし、自分が作品をつくる時の意識と、職方にとっての仕上げに対する意識がまったく違うことを感じました。
成功体験ではなく、失敗体験から学ぶこと
──研修を進めていくなかで、新入社員たちの取り組み方について児玉さんはどのように感じていましたか?
児玉
今回の研修では、成功体験よりも失敗体験から学んでほしいという思いがあったので、内心では「もっと失敗してもいいのに」と思っていましたね(笑)。ほとんどの場合、成功した理由はだれも振り返らない一方で、失敗した理由は必ず振り返りますよね。今回の研修では、何か失敗したとしても迷惑がかからないように準備した上で進めていたので、とにかく小さな失敗をたくさんしてもらい、現場に配属される前にひとつでも多くその原因について学んでほしいと思っていました。
我々施工管理者は、実際の現場で職方の作業を手伝うことをしません。万が一ミスが起きたり、お引き渡し前のものに疵を付けてしまったりするなど、品質に対する責任が持てないからです。それよりも図面をもっと確認して、職方が危険な作業をしてないか監督するのが施工管理者の仕事なんですね。一緒に作業をしてしまうと、どうしても自分の狭い範囲の仕事しか分からなくなりますし、他の作業員の安全に目を配れなくなってしまいます。それに、職方でもないのに作業をしたことで納まりが悪くなり、トラブルになってしまったら本末転倒なので。
一方で、施工管理者がまったく作業を経験しなくなったことで、現場作業の難しさを体感できる機会がなくなってしまったマイナス面もあったと思います。簡単にできるだろうと施工管理者が変更してしまったことが、職方にとってはかなり大変な変更だったということが起こり得ます。施工管理者がお客様ときちんと調整しなくてはならないのに、一方的に職方たちに作業の変更やNGを伝えてしまうと、職方からしたら不満が募りますよね。できれば丹青ヒューマネットのみなさんには、仕事の本質を理解した上で職方の気持ちがわかる施工管理者になってほしいと思っています。
青木
実際に経験してみないことには、自分が知らないということすらわからないと思いますし、今回の研修を通して、きちんと失敗できる機会を与えていただいたんだなというのを感じます。
天野
今回実際に作業をして感じたことを覚えておけば、実際に現場に入って施工管理者として職方たちに指示をしなくてはならない時に活かせると思いますし、今回の経験があったからこそ、施工管理の仕事を楽しめたり、充実感が得られたりするようになるんじゃないかなと感じます。
──あらためて、今回の研修全体を振り返ってみていかがですか?
青木
研修を通じて、施工管理者として実地研修での作業の経験はもちろんですが、その前に実施した座学からも得られるものは多かったと思います。現場に出てから研修で学んだ言葉を耳にした際に、まったく知らない言葉ではないため、少しは理解できるのではないかと思います。
天野
入社前の段階では、施工管理の仕事がどのような順番でおこなわれているのか自体を知らなかったので、今回工事の最初から最後までの大まかな流れを知ることができたのは、今後の仕事に活かすことができる経験だったと思います。なにか想定外のことが起きた場合、現場でどのように対処していくのかも直に見ることができましたし、この経験を忘れないで現場の仕事に活かしていきたいと思います。
岡本
最終的に横浜工作所の方々にも満足いただき、「すごいいい部屋だね」と言っていただくことができました。新入社員のみなさんにとっても、自分たちがデザインから施工まで手がけた空間を実際に使ってもらえるというのは、とってもよい体験になったんじゃないかなと思うので、来年以降もぜひ実施できればと考えています。
児玉
今回ゼロから企画してみたことで、よかった点と改善すべき点の両方があったと思います。次回以降はよかったところを活かしつつ、よりよくするためのマイナーチェンジをしていき、さらに完成度の高い研修にしていきたいですね。今回はどこまでクオリティの高い空間をお客様に引き渡すことができるかが未知数でしたが、実際に使っていただける空間が仕上がり、生産性のある研修にできたと思います。
新人研修を終えて
現場初日に指揮命令者から「これやっておいてくれる?」と言われ、「はい、わかりました」と対応できる。
そのためのインプットをできるだけ経験し、現場でのアウトプットと日々の研鑽につなげる新人管理者の育成・教育を目指したい。
そんな思いが「新人研修カリキュラム」の背景にありました。
また、座学や見学では感じられない、実作業で得られる重さや圧の感覚を体感してもらい、作業の大変さや指示の重要さを理解して欲しかった。その点で今回は、それなりのスタートを切ることができたかなと感じています。
来期の計画は既に始まっています。今回の実践を振り返ると共にご協力いただいた講師の皆様や配属先の先輩方などにもご意見を伺いながら、更にブラッシュアップした新人研修カリキュラムとなることを期待しています。企画側も日々研鑽です。
株式会社丹青ヒューマネット
堀内 秀治
丹青ヒューマネットの新人研修「失敗から学ぶ、職方の技量と施工管理者の仕事術」
「あいさつ」を通じて風通しのいい職場をつくり、すべての社員の働きやすさを実現したい。入社希望者の増加を成功させた、横浜工作所の社内改革/企業インタビュー vol.2
株式会社丹青ヒューマネットは、「働く人を応援し、幸せになる」をミッションとし、建築・インテイリア業界へ人材を輩出しています。人材のことで課題をお持ちの企業様、新しい働き方をお探しの方はこちらへご連絡ください。