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「あいさつ」を通じて風通しのいい職場をつくり、すべての社員の働きやすさを実現したい。入社希望者の増加を成功させた、横浜工作所の社内改革/企業インタビュー vol.2

株式会社横浜工作所

写真:寺島由里佳 取材・文:堀合俊博 編集:丹青ヒューマネット
公開日:2024/8/30

2024年度の新卒社員を対象とした丹青ヒューマネットの社員研修では、船舶修繕を中心に事業を展開する株式会社横浜工作所にご協力いただき、同社の会議室にて内装工事の現場研修をおこないました。横浜工作所は、社員の働きやすさを支える福利厚生や、これまで培われた技術力を活かした新規事業の展開など、社員の成長とやりがいをサポートするさまざまな取り組みを実践されています。福利厚生のためにキャンピングカーと船を購入し、ご自身のことを「おかしな社長」と話す代表取締役社長の二宮一也さんに、風通しのいい職場づくりに取り組んできたこれまでの過程についてうかがいました。

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「あいさつ」を通じて風通しのいい職場をつくり、すべての社員の働きやすさを実現したい。入社希望者の増加を成功させた、横浜工作所の社内改革/企業インタビュー vol.2

 

エンジニアとしての道を突き詰めてから経営者に

──このたびは丹青ヒューマネットの新人研修にご協力いただき、ありがとうございました。
企画についての相談を受けられた際に、社内ではどのような反応がありましたか?

お話を聞いた時に「いいね、おもしろそうだね」と、誰も反対しなかったですね。丹青ヒューマネットの代表の堀内さんとは以前お仕事でご一緒する機会がありましたが、またこうやって違うかたちで関わることができてうれしいです。

作業中の様子を拝見させていただきましたが、新入社員の方が熱心に施工に取り組んでいる姿に、私たちも元気をもらいました。みなさんやる気に満ち溢れていて、どうやって採用活動されているんだろうと、社員のみんなが感心していました。

仕上がった空間を見せた時の反応もよかったです。床や壁にあまり見たことがない素材が使われていて新鮮ですし、デザインも気に入っていて、使うのがもったいないくらいだと喜んでいます。

株式会社横浜工作所 代表取締役社長 二宮一也

株式会社横浜工作所 代表取締役社長 二宮一也

 

──気に入って使っていただける空間に仕上げることができて安心しました。
あらためて、横浜工作所さんの事業についてお聞かせいただけますか?

横浜工作所は、東京湾に入港する外国の貨物船の緊急修理を請け負う企業として、1920年に事業をスタートしました。当時、三菱重工横浜製作所造船部門前身の横浜船渠株式会社に所属していた専務が、横浜駅東口にある横浜そごう隣接地(現、横浜ベイクォーター)に新会社を立ち上げた経緯があり、創業以来、いわゆる”沖修理”と呼ばれる、東京湾の港に碇を降ろした船舶の修理を請け負っています。

かつて事業所のあった横浜の港南地区一帯は造船所がたくさんあったのですが、都市開発によって、我が社も平成2年からは現在の生麦に拠点を移しました。

 

──二宮さんはもともと船の修繕に関わられていたのでしょうか?

もともと学生時代は船舶技術を学ぶ大学にて、エンジンや電子工学といったエンジニアリング全般の勉強をしていたんです。卒業後はIT業界に就職し、PHS(携帯電話)の高周波回路といったハードウェアの設計に携わりました。ものづくりが好きなのでそういった進路を選んだはずでしたが、やはりどこかで船に関わる仕事がしたいと思っていたんでしょうね。その後、船舶免許の試験機関に転職したものの、もっと深く突き詰めたいと思うようになり、職業安定所にて横浜工作所の求人を見つけたのが、ここに入社したきっかけです。

当時は経営に興味はなかったですし、現場の作業員としての仕事をまっとうしたいと思っていましたが、その後修理事業を指揮するようになり、厳しい状態にあった会社の再建のために、私が社長を務めることになりました。

 

「あいさつ」をすれば利益が上がり、ボーナスに還元される

──横浜工作所では、社員の方々の働きやすさのためにさまざまな取り組みを実施されているとうかがいました。
社長に就任されてから、まずはどのようなことから変革されていったのでしょうか?

社長になったばかりのころは、すべてを根本から変えなくてはならない状況でしたね。なにより当時は、社員同士があいさつすら交わさない状態だったんです。まずは社員と協力会社のみなさまが働きやすい環境にしなければと思い、最初の社内改革として、あいさつをすることをみなさんにお願いしました。理由はとても簡単で、自分が嫌だと思うことは、極力他人にもしないことが大切だからです。

たとえば同じコンビニでも、「いらっしゃいませ」とあいさつをしてもらえる店舗と、無言で接客している店舗を比べたら、当然あいさつがある方を選びたくなりますよね。同じように、技術と時間単価が同じ造船会社を比べたら、より感じのいい会社が選ばれると思うんです。あいさつすればその分仕事が増えるはずで、売上は上がり、利益が出ます。そしてそれをちゃんと社員に還元しますと、朝礼で社員のみなさんにお伝えしました。

株式会社横浜工作所 代表取締役社長 二宮一也

 

──みなさんからはどのような反応がありましたか?

はじめは信用されませんでしたよ。「あいさつをして給料が増えるんだったら、いくらでもしますよ」と、どこか懐疑的な社員もいました。でも、実際に売上は上がっていき、利益が出るようになった。黒字が続けば、当然みなさんボーナスのために業績を落としたくないので、さらにあいさつをちゃんとするようになりました。

忘れてはいけないのが、社員にとって仕事はあくまで生活のためだということで、お金のことについてちゃんと話せば、その分社員は頑張ることができます。とてもシンプルで、難しいことはなにも必要ないんです。

さらに2023年の11月からは、社内の呼び方を「さん付け」で統一することにしました。横浜工作所には、若者からベテランまで、いろんな世代の従業員がいます。当然世代によって価値観の違いはありますし、親から受けた教育の違いや、性別の違いもある。そのなかで、いかにバランスよく協業できるかが重要なので、みなさん平等に「さん付け」で呼び合ってもらうことで、会社の風通しをよくしたかった。同様に、「下請け」「外注」「業者」という呼び方も上から目線な感じがするので、「協力会社」に統一してもらいました。

 

──実際に社内ではどのような変化がありますか?

作業員といえば、柄が悪くて部下を怒鳴りつけるようなイメージがありますよね。私はよく「品のある作業員になってください」と話すようにしているんですが、実際に「さん付け」で呼び合うようになってからは、職場に品が生まれるようになりました。

「あの人がいるから会社に行きたくない」と思ったり、意味もなく上司から怒られたりするような会社では、仕事をする以前に社員が疲れてしまいます。それは会社にとっては大きなマイナスなので、風通しのいい会社にすることで、働く環境がよくなり、生産性を上げることができます。

さらに、あいさつに続いてはじめたのが掃除でした。以前は咥え煙草をしながら作業をする作業者もいましたが、これは良くないなと思い、なにも言わず2週間ほどトイレ掃除を私一人でやっていたんです。そうすると、社長だけにやらせてはまずいだろうと手伝う人が増えていき、徐々に社員が自発的に掃除をはじめたり、いろんな改善をはじめたりするようになりました。

また、安全対策に二の足を踏んでしまうと、私たちのような会社は成長しませんから、安全管理にも力を入れはじめました。作業中、面倒だからといって安全への配慮が足りていなかったようで、ある日作業員が修繕中の船舶でぼやを起こしたことがあったんです。すぐに現場に向かうと、電子レンジや冷蔵庫がドロドロに溶けてしまっており、「これは持ち帰るので捨てないでください」とカラーコーンで囲っておき、ぼやの記憶を忘れないように、その後ショーケースに入れて会社の一番目立つところに飾りました(笑)。人間は忘れてしまうようにできているので、そのくらいのことをする必要があるんです。

 

──働きやすい環境をつくるために、制度を整えたり、有給休暇の取得を促したりする企業は多いと思いますが、そういったことも実施されていますか?

都度色々と改善しています。例えば、休みたい時に遠慮せずに休める環境と体制をつくることが大切で、風通しさえよくなれば、上司より先に帰りづらかったり、なかなか休みが取れなかったりということもなくなります。結果的に有給取得率(80%強)は上がりましたね。

株式会社横浜工作所 代表取締役社長 二宮一也

 

──あいさつや呼び方、掃除など、日常的なことから会社を変えていこうという発想はどのように生まれたのでしょうか?

たぶん、育った環境が影響していると思います。私は漁業を営む家に生まれ、父は地域の方々と魚を獲ったり、両親で真珠の養殖をしたりしていました。家に帰ると近所の方が縁側で将棋を指している人がいたり、居間でお酒を飲んでカラオケをしている人もいたりして、同級生が居間でごはんを食べているような家庭でした。きっと両親は、小さなコミュニティのなかで垣根をつくりたくなかったんでしょうね。自分の家族だけを同胞と考えるような教育はされなかったですし、思い返すと私の父が他人の悪口を言っているところを見たことがありません。

 

入社希望者の増加に成功した面接官の「自己紹介」

──社員が使用できるキャンピングカーを福利厚生として購入されたそうですが、どのような経緯があったのでしょうか?

コロナ禍に入った時期に、外出できなくなったことで社員とご家族のストレスが溜まってしまうのではないかと考え、電車や飛行機を使わずに出かけられる手段として購入したのがキャンピングカーでした。キャンピングカーならそのまま行って帰ってこられますし、車内で寝泊まりもできます。

さらに、私たちは船に関わる仕事なのに、海を楽しんでいる社員が少ないのはもったいないなと思い、自由に使うことができる船も購入しました。会社がキャンピングカーや船を持っていると、それをきっかけに興味を持ってくれるリクルートの方がいます。造船業は基幹産業ではありますが、船は電車や飛行機に比べると日常から遠いものなので、おもしろがってもらえるような工夫をしないと誰も応募してきてくれません。

ほかにも、以前は上下紺色だった作業着のズボンをベージュに変更し、上着をデニムジャケットのようなデザインに変更しました。ヘルメットも以前は黄色でしたが、作業着に合わせやすい白に変えています。既製品より3倍近くコストがかかりましたが、社員の作業着が変われば、働く現場の景色も変わるので、そこはこだわりましょうと。そうやって身の周りから変えていくことで、一昨年は23年ぶりに新卒社員を採用することができましたし、応募者数も直近2年間で1,000人の大台に乗せることができました。

 

──採用活動はどのように実施されていますか?

基本的に求職者の方はWebサイトをみて応募されてきています。新卒の方々からすると、これから働く職場にどんな人がいるのか不安だと思うので、極力会社の中身をオープンにしようと、施設紹介やプロジェクトストーリーなど、求職者にとってヒントになる情報を載せていきました。ブログも書きはじめたのですが、だんだん私が忙しくなってしまったので経理の方にお任せしたら、ある日YouTubeに動画もアップしはじめて、そちらも求職者に見ていただいているようです。

また、新卒・中途にかかわらず、面接後にほとんどの方が「入社したい」とおっしゃっていただけるようになりました。うちはなんの変哲もない町工場ですし、「どこがいいんですか?」と聞くと、みなさん口を揃えて「面接がよかったから」と言うんです。

株式会社横浜工作所 代表取締役社長 二宮一也

 

──なにか面接のやり方に特徴があるのでしょうか?

たとえば、求職者の方に志望動機を聞いたとしても、基本的には採用面接のセオリー通りのことしか話さないですよね。それではどんな人なのかわからないですし、求職者からしてもどんな会社なのかわからないまま面接が終わってしまいます。入社前のイメージとギャップがあるとやめてしまうと思うので、面接のやり方を大きく変えることにしました。

本来、面接官と求職者は平等のはずですし、入社したいと思ってもらわないことには会社は成立しません。なので、まずは面接官に優位性がある状態をやめるために、求職者よりも先に、面接官が自己紹介をするようにしました。そうすれば求職者の緊張がほぐれて、お互い本音で話すことができるようになります。それに、一通りお話ししたあとに「他に質問はないですか?」と聞いたとしても、大抵の場合は特にないまま終わってしまいますが、本当は会社の給料や社内の人間関係、有休について聞きたいはずなので、むしろこちらから進んで話すようにしています。

 

あたらしい事業に挑戦し、会社の景色を変えていきたい

──近年新規事業に力を入れられるようになった背景についてもお聞かせください。

2019年からはオランダの会社と契約して、浮体式洋上風力発電向けの大型アンカーの国産製造をうちではじめました。既に国産1号機が完成して構内に展示しています。通常は大手企業や電力会社が手がける領域ではありますが、アンカーにはまだ注目が集まっていなかったので、これを一手で引き受けたらすごいことになるだろうなと、事業としてはじめることにしたんです。

今後はこれまで培ってきた船舶修繕業の技術力をベースにさまざまな事業を展開していきたいですし、造船業界に限らず、あたらしいことに挑戦して会社の景色を変えていきたいと思っています。事業開発部と経営企画部をあらたに設立したので、社内には作業着の人だけではなく、ラフなオフィスカジュアルの人もいれば、スーツ姿の社員もいます。そんな景色をこれからも見ていたいですね。

現在、50名の作業員のほかに、事務所勤務の社員が30名ほどいますが、ここ2年ほどは離職率も下がっていると思います。それに、一度配置された部署でずっと働くのではなく、別の仕事の特性がありそうならば、とりあえずやってみてもらうようにしているんです。もし合わなければもとの部署に戻ればいいだけなので。

また、社員たちにも社内改善や新規事業の案を出してもらえるように、社内にアイデアボックスを設置し、なにか提案すれば100円がもらえる仕組みにしています。社内改善案については、内容に応じてアイデア料を出しています。まだ事業に直接つながるアイデアは生まれていませんが、今後もし事業に発展した場合には、そちらの方も貢献度に応じて報奨金も出そうと思っています。

浮体式洋上風力発電向けの大型アンカーの模型(原寸の1/6サイズ)

浮体式洋上風力発電向けの大型アンカーの模型(原寸の1/6サイズ)

 

──最後に、今後の横浜工作所の展望についてお聞かせください。

だんだんこの生麦の事業所も手狭になってきているので、今後は規模の大きな造船所を東京湾内につくりたいと思っています。水深などの条件が揃う場所を見つけるのはなかなか難しいのですが、最終的には東京湾に往来するたくさんの船にとっての救急病院のような造船所をつくりたいなと。

また、造船所の設立が実現した際には、地域との共生にも取り組んでいきたいと思っています。たとえばシャッター商店街を再生させるために、社内に食堂をつくって商店街の飲食店に運営を任せることで、地域の経済的な基盤をつくる。食堂ができれば、社員に子どもができた時にお弁当や日々の食事をつくる手間が省けますし、仕事をやめなくてもすみます。さらに会社内に保育園もつくれば、子どもと一緒に出社できますし、お昼休みには子どもの様子が見られて、熱が出たら連れて帰ることもできる。

それに、日本人が苦手な語学力の克服のために、保育園でネイティブの英語講師から英会話を学べるようにしたいですね。夕方からは社員も講座を受けられるようにすれば、地域の英語講師の方々の雇用の安定にもつながります。

私が社内改革に取り組んでから10年ほどが経ちますが、少しずつ会社がよくなってきているのを感じます。とはいえ社員のプレッシャーになったり、暑苦しく感じられてしまったりするのもよくない。自然と組織が変わり、結果として業績がよくなっていくのが理想なので、これからもそんな会社を目指していきたいと思っています。

研修で行った工事の工程スケジュールと体験内容

 

取材を終えて

二宮社長と出会って5年。社内改革などのお話を拝聴しつつ、社長の振舞い、お考えなどに色々と共感でき、私の尊敬する社長のお一人です。

今期、私が社長就任のご挨拶で伺った際にお話させていただいたのが、今回の新人研修カリキュラムへの協力でした。案の定「面白い!」と共感してくださり、私のいきなりのご依頼を考えると「おかしな社長」の仲間になれたのかなと確信いたしました。働く場は『海上』と『陸上』ではありますが、今後とも『地球上』の色々なことをご相談、そしてご一緒させてください。

ありがとうございました。


株式会社丹青ヒューマネット

堀内 秀治

——COMPANY PROFILE

株式会社横浜工作所

創業1920年(大正9年)、104年の歴史と実績を持つ、船舶修理のパイオニア企業。
顧客は官公庁・民間・米軍と幅広く、多い年には年間700件もの修理実績があり、緊急修理にも対応することから「船舶の救急隊」と呼ばれている。
近年社員数は2倍近くに増え、2023年に初めての子会社を設立。2024年には新たに2つの事業所を開設し、組織を拡大している。また、浮体式洋上風力発電のアンカー製作(2024年2月に国産初号基を完成)など新規事業にも注力している。

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