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空間づくりの現場が目指す「安全」の基本とは? 労働安全コンサルタントが解説する、「安全衛生管理のための13のヒント」vol.1

取材・文:堀合俊博 写真:葛西亜理沙 イラスト:イスナデザイン 編集:丹青ヒューマネット
公開日:2023/2/1

労働安全コンサルタントの米澤一夫さんが解説する、空間づくりの現場で働く施工管理者に向けた全5回シリーズの「安全衛生管理のための13のヒント」。第1回目となる本記事は、「安全」の定義をはじめ、施工管理者が取り組む安全・衛生管理のファーストステップとなる3つのヒントを紹介していきます。



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米澤一夫 労働安全コンサルタント・一級建築士 桑沢デザイン研究所を卒業後、丹青社に入社。41年間にわたり制作・設計および統括管理・施工管理の仕事に携わる。2017年より米澤労働安全コンサルタント事務所を立ち上げ、労働安全の専門家として、企業のコンサルティングや安全衛生管理に関する啓蒙活動に取り組んでいる。

空間づくりの現場の安全衛生管理

労働安全コンサルタントの米澤一夫と申します。私は普段、労働安全の専門家としてのコンサルティング業務はじめ、施工現場の安全水準を高めるための指導活動や、企業からの依頼で施工現場の統括管理者を指導する仕事に携わっています。

私はこれまでに、商業施設および店舗や展示会などといった中規模の現場に携わってきましたが、作業員の人数が少ない空間デザインの領域では、管理組織も小さく、施工管理者は同時に複数の仕事をこなす必要があるため、大手建設会社の現場に比べて、安全管理への取り組みに苦心している現状があります。

しかしながら、現場で真っ先に危険な目にあってしまうのは作業員の方々です。現場の統括管理を行う施工管理者は、作業員の方々の安全衛生を担う存在として、現場で掲げている「安全第一」の言葉の先にある「災害・事故ゼロ」という目標を目指さなくてはなりません。

このコラムシリーズでは、災害や事故を招く要因を確実に取り除くために、「安全管理」および「衛生管理」のヒントをわかりやすく紹介していきます。本コラムをきっかけに、施工管理者のみなさんの安全への意識がより一層深まることを願っています。

 

1.現場の安全を実現する「4つの管理」

「安全第一」をスローガンに掲げる施工現場・作業所では、施工管理者はさまざまな管理業務が求められます。ここでは、おもに安全衛生のために必要な4つの管理について紹介します。

(1)安全管理:作業所の足場や作業床の組み立てなど、作業員の安全が確保された環境を整え、安全作業を推進する
(2)品質管理:鉄骨の制作や組み立て、造作の下地、仕上げなどを確実に行うことで、仕様書と図面内容に沿った適正品質を確保すること
(3)工程管理:作業工程が計画通りに遂行されているかを監督すること
(4)予算管理:作業工程における必要な予算の計画や管理を行うこと。なお、この場合の予算とは、安全環境の整備や安全活動のために必要な予算に加え、仮設事務所や仮設資材・設備の設置に必要な「仮設予算」が含まれる

施工管理の仕事において、これら4つの管理が互いに協調し、調和することで、はじめて「災害・事故ゼロ」の目標が達成されるのです。

 

2.安全施工サイクルの実施

建設業における労働災害防止に向けた活動を行う「建築業労働災害防止協会(建災防)」では、安全衛生管理を推進するための「安全施工サイクル」の実施を推奨しています。「毎日・毎週・毎月」と、実施頻度によって内容が異なる安全施工サイクルは、施工管理者が取り組む安全管理の基本業務となります。それぞれ内容をみていきましょう。

 

毎日の安全施工サイクル

「毎日の安全施工サイクル」において、まず大切なのは「安全朝礼」です。定められた時間に全作業員が集まり、連絡・通達事項や安全衛生に関する注意事項を毎朝確認することで、現場の規律は保たれ、安全への意識が統一されていくのです。

「安全朝礼」を終えた後、現場の各作業員を集めて、職長やリーダーが「KY(危険予知)ミーティング」を実施します。その日に起こりうる危険について話し合い、安全対策の内容を確認しましょう。現在は新型コロナ対策として検温とマスクの着用についても確認しています。終了後、実施内容と参加作業員の名前を記録し、当日中は作業現場に掲示しておきます。後日の振り返りのために、実施記録は保管しておきましょう。

KYミーティング終了後、施工管理者が実施する業務は「安全パトロール」です。毎日1回以上実施することが義務とされている安全パトロールでは、現場内を巡回しながら、作業の安全実施状況や現場内の仮設物や設備の安全を確認していきます。

そのほか、毎日の安全施工サイクルとして重要な業務に「安全工程打合せ」があります。職長およびリーダーを集め、安全パトロールの内容を共有や作業状況、工程の確認を行います。ここでも実施内容も記録し、保管しておくことが大切です。

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毎週・毎月の安全施工サイクル

毎日の業務に加え、定期的な実施が求められているのが「毎週」および「毎月」の安全施工サイクルです。「毎週の安全施工サイクル」には、全作業員が各自の作業場所と共有の場所を整理・整頓し、清掃を行う「一斉清掃」などがあります。

「毎月の安全施工サイクル」として実施するのは、「安全大会」および「安全衛生協議会」、「職長会」です。全作業員が参加する「安全大会」には、安全のためのルールや作業の実施状況をあらためて確認し、現場全体の安全への意識を高めるための役割があります。

事業者を対象に行う「安全衛生協議会」では、次月の作業工程と現場作業を進める中での気づきや、安全のために改善しなくてはいけない環境や行動およびルールについて話し合います。「安全大会」とあわせて、参加者が主体的に取り組むことができる雰囲気づくりも、施工管理者の大事な仕事のひとつです。

そして、職長たちが参加して実施する「職長会」では、作業内容と工程の確認をはじめ、現場で作業する職人たちの声を各職長から拾い集め、さらなる安全に向けた施策について話し合いましょう。

 

3.「グッドポイント」「レベルアップポイント」を見つける安全パトロール

毎日の基本業務である「安全パトロール」にて、作業者の不注意や災害につながる危険作業状況を発見した場合、施工管理者はどのように注意すればいいのでしょうか?

作業員の中には、指摘された直後は行動を直すものの、ふたたび同じ行動を繰り返してしまう方も見受けられるのが現状です。その理由には、施工管理者からの指摘がネガティブなイメージを与えてしまい、作業員が指導の内容を受け入れづらく感じていることが考えられます。

作業員にネガティブな行動をさせないためにも、施工管理者は「グッドポイント」を見つけるところからはじめてみましょう。安全に作業が行われている良い点を見つけ、きちんと評価し、「なにが」「どのように」良いのかを作業員に伝えるのです。なお、その様子は写真に撮り、安全パトロールの記録としてください。

作業員の危険な行動や設備に不備を見つけた場合は、その内容を「レベルアップポイント」として指摘し、改善するように指導していきます。いたずらに作業員への注意や指摘に終始するのではなく、“さらに良くなる”というポジティブな印象を与えることで、作業員は指導の内容を受け入れやすくなり、安全に向けて自主的に取り組むことができるようになるのです。その後の安全パトロールでは、作業員の行動が是正されているかをきちんと確認しましょう。

 

「グッドポイント」「レベルアップポイント」の事例

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商業施設内でのテナント店舗の改装現場のイラストです。仮囲いの外は一般のお客様の通路で、両側の隣接店舗は営業をしています。

「グッドポイント」
・靴の汚れを落とす「水洗い用の足ふきマット」の横に「水拭きマット」を置くことで、靴の水をぬぐうことができるようにしている。非常に工夫されています。

「レベルアップポイント」
・軽作業時には、作業員の靴には白い粉の汚れが多く付着します。この靴の粉汚れは、食品工場などでも使用されている「粘着マットシート」を使用することで、手軽にとることができます。石膏ボードのヤスリ作業やパテ下地作業の白い粉といった靴の汚れの場合は、「粘着マットシート」を使用するとより良い効果があります。

 

作業中の周辺状況の安全

現場の作業員は、自作業に集中するあまり、周辺状況の安全に意識がいかず不注意になってしまう状態に陥りがちです。注意が行き届かない作業中の周辺状況については、職長もしくは別の作業員が監視員として立ち会う必要があります。施工管理者は、施工全体の安全を確認する立場として、監視員の設置が必要な作業の有無を確認しましょう。

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職長もしくは監視員が作業員の周辺状況を確認し、安全を確保します。

 

情報共有のための「グッドプラクティスデータベース(GPDB)」

安全パトロール中に指摘した「グッドポイント」と「レベルアップポイント」は、他の現場でも応用できるように、「グッドプラクティスデータベース(GPDB)」として蓄積しておきましょう。「GPDB」を作業員および現場管理者同士で共有し、互いに参照し合うことで、より安全な現場づくりが可能となります。

このように、施工現場の取り組みを「見える化」することは、安全管理の質を向上させるだけではなく、施工管理の仕事における働き方の改善へとつながります。それらを継続することで、安全管理の目標である「災害・事故ゼロ」が達成されるのです。

次回は、施工管理者の指針となる「労働安全衛生法」の説明をはじめ、リスクアセスメントや、安全環境を整えるためのヒントをご紹介します。

関連情報:
> 一般社団法人 中小建設業特別教育協会「職長・安全衛生責任者教育 教育課程」

 

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