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太刀川英輔 /NOSIGNER代表 - withコロナ。これからの働き方を探る  Vol.7

コロナ(COVID-19)が世界的に猛威をふるい、わたしたちの働き方、生活も変化を余儀なくされました。オフィスには出社できず、多くの会社がテレワークにシフト。

急激な変化に対応するなかで、「働く人を応援し、幸せになる」をミッションに掲げる丹青ヒューマネットは、改めて働くことについて考えてみたく、建築・デザイン業界に従事されている方々にお話しを伺っていきます。

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credit: Yuichi Hisatsugu

 

文:吉岡奈穂 取材・編集:石畑和恵(丹青ヒューマネット)

公開日:2020/11/25

 withコロナ。これからの働き方を探る 

NOSIGNER代表 太刀川英輔
--PROFILE


NOSIGNER代表。デザインストラテジスト。慶應義塾大学特別招聘准教授。

デザインで美しい未来をつくること(デザインの社会実装)発想の仕組みを解明し変革者を増やすこと(デザインの知の構造化)この2つの目標を実現するため、社会的視点でのデザイン活動を続け、次世代エネルギー・地域活性・世代継承・伝統産業・科学コミュニケーションなど、SDGsに代表される社会課題に関わる多くのデザインプロジェクトを企業や行政との共創によって実現。

プロダクトデザイン・グラフィックデザイン・建築・空間デザイン・発明の領域を越境するデザイナーとして、グッドデザイン賞金賞(日本)やアジアデザイン賞大賞(香港)など100以上の国際賞を受賞。

デザインや発明の仕組みを生物の進化から学ぶ「進化思考」を提唱し、変革者を育成するデザイン教育者として社会を進化させる活動を続けている。

 


 



1.なぜ現在の仕事を選んだのでしょうか?

——デジタルツールの普及に伴い、領域を越境するデザイナーへ

建築家になろうと思っていました。隈研吾さんの研究室に入って、建築学会の学生代表もやって、コンペにも積極的に参加して、卒業設計にも力を入れて、なんというか、模範的な建築学生やってましたね。笑。

ちょうどその頃、設計にコンピューターが取り入れられてきた時代だったんです。

「form-Z」「Cinema 4D」「Maya」「3ds Max」などのツールが続々と出てきて、建築家も「Illustrator」「Photoshop」を使うのが当たり前になったことで、建築と他のデザイン分野の領域がなくなってきた。僕自身も建築学科にいながら、インスタレーション、家具、フライヤー制作まで、何でもやるようになっていきました。

そんな時期に「体感」をテーマにした24時間イベントを開催して、建築家、照明デザイナー、音響のプロなど錚々たるメンバーを呼んでセッションをしたのですが、話を聞けば聞くほど建築が何なのかわからなくなってきて。大きな建築をどんどん作ってしまってた果たして自分は責任を取れるのだろうかと悩むようになりました。

そして、まず小さいものから始め、建築はまたいつかやろうと考えて、NOSIGNERを名乗りプロダクトデザインとグラフィックデザインを手がけはじめたのが始まりです。

いまはストラテジスト、プランナー、クリエティブディレクター、アートディレクター、スペースデザイナー、プロダクトデザイナー、グラフィックデザイナー、政策提言者から、創造性教育者として大学で教えたり、スタートアップの経営にいたるまで、さまざまな職能を横断していますが、20代に実地でさまざまなジャンルの方の薫陶を受けてきたことが現在につながっています。

 

 

2.大学以前のエピソードはありますか?

——実験や作業が好き、ハードな経験もした中高時代

ひとりっ子なのになぜか2段ベッドを使っていて、上を作業台にして、いろんなものを分解してみたりとか、実験するのが好きでした。 近所の粗大ゴミを拾っては自室に持ち込んでいて、TVは3台あったし、ルームランナーまであったりして。全部タダ。

3歳のときに両親が離婚したため祖母に育てられたのですが、13歳の頃に家が大変なことになるんです。父親が経営していた建築設計の会社が倒産して、結構ひっちゃかめっちゃかで進学も危ぶまれた中、18歳で母親を探し当てた。結果、母親に学費を出してもらえて大学に進学できたこともいまにつながっています。

ちなみにいま母親は事務所にスタッフの賄いを作りに来てくれている、というハッピーエンドなストーリーです!

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学生時代にデザインしたテーブル。羽田空港にも多数設置されている。(credit:Masaharu Hatta )

 

 

3.コロナ禍によって仕事や働き方に変化がありましたか?

——それぞれ自分の役割を理解し、リモートワーク体制へ

事務所も自宅も中華街のすぐそばです。武漢出身の人も当然いますし、風評被害も受けて、街がガラガラになりました。ダイヤモンドプリンスはもはや別の国扱いされ、エリア全体が脅威に晒されていました。

なので働き方は結構早い段階から変えていて、1〜2月はリモートワーク推奨、3〜4月はマストとしていました。クラウドシステムでデータを管理していたので、デザインチームはそれほど影響を受けなかったですね。バックオフィススタッフのほうが立ち回りが難しかったかもしれません。

あと、自分の仕事がわかっている人は問題ないけれど、わかっていない人は大変だなと実感しました。新卒スタッフなどはずっと家にいても、ほんとうにどうしていいかわからないはず。

自宅で仕事をする場合は、これまで以上に自分の役割を明確に意識することが必要だと認識しました。

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「PANDAID」コロナから命を守るために世界中で考えられた知恵をまとめる共同編集ウェブサイト。( credit:NOSIGNER)

 

——「PANDAID」立ち上げや、フェイスシールドのシェアも

緊急事態宣言が発令されて、大好きだった中華街のお店が何軒も潰れたり、世界中で不安が広がっていることが、危機感に対するリアリティを急速に高めたように思います。感覚的には東日本大震災に近かった。

震災のときも防災分野のウィキぺディアとして「OLIVEプロジェクト」を立ち上げたこともあり、今回の状況でも何か社会に働きかけたかった。

そこで作ったのがコロナから命を守るために世界中で考えられた知恵をまとめる共同編集ウェブサイト「PANDAID」です。ボランティアで300人以上が編集に協力してくれて、国連や各自治体もポスターを貼ってくれて、認知されていきました。

A4のクリアファイルを使って簡単に作れるフェイスシールドもシェアしました。無料でダウンロードできる型紙をクリアファイルに入れて線のとおりにハサミで切るだけだし、30秒ぐらいでできる。安定性も高く、通気性も良く、東大病院や北里病院をはじめ多くの病院で使ってもらえたので、医療防具が足りない状況に対してひとつ貢献できたかもしれません。

いまは物資が落ち着いてきたので、楽しいソーシャルディスタンスを街に広げる活動などをしています。

 

 

4.現在の状況で大事なものは何だと思いますか?

——データを見ること、ストレスを溜めないこと、家を心地よくすること

コロナの問題は医学であり科学なので、情報番組に流されず、データを見ることが大事だと思います。

検査数に伴って感染者は増えていますが、日本やアジアは重症者や死亡者多くはない状況ですよね。社会としてコロナをどう扱うかは不透明な中で、データを基盤として現在の状況を把握することが大事。

あとはコロナに罹患した人を責めないこと。対策しても感染することはあるし、それは誰のせいでもない。自分も感染する可能性もあるのだから、荒まないようにしないとね。

あと家庭内で問題があったら、すぐ外に相談すること。DVなど家族間の問題はクローズドになりがちなので、第三者の目にどんどん伝えたほうがいいと思います。オンラインでも相談できるし、ストレスを自分の中だけで処理しない。

それと、こんな時期こそ遠くに住んでいてなかなか会えない方とのご縁を取り戻すのもいい機会だと思います。

ベランダをミーティングルームにするなど、半屋外を活用して家の居心地をアップさせるのもお勧めです。

いま自宅を「隔離後の家:アフターアパートメント」というテーマでリノベーションをしていて、窓の外の景色やグリーンの扱い方を検証したり、壁際に20cmぐらいのテーブル的なものをぐるりと巡らせたり、隔離という視点で、自宅を作り変えながら暮らしを考え直しています。

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「東京防災」東京都が660万を超える全世帯に配布し、803万部を発行した防災ブック「東京防災」のデザインおよび編集を、電通と共同で行った。(credit:Kunihiko Sato)

 

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「幸ハウス」入院患者同士や、その家族、友人らが励まし合いながら、人生の尊厳を取り戻すこととともに、看護師にとってもやすらぎの場として機能する「家」のような医療福祉施設。(credit: Kunihiko Sato )

 

 

5.いま、どんな人と働きたいですか?

——自分の道を探求し続けている人

自分よりすごいと思えるところがある人、仕事において頼れる部分が明確にイメージできる人です。

いまのデザインチームは全員そうですね。本への愛がとんでもない、絵が上手い、フォントにめっちゃ詳しい、モーショングラフィックの技術がすごいなど、僕が叶わないスキルを何か持っている。そうすると相手を素直に尊敬できるし、僕の敬意が伝わることでいいリレーションができる。

自分の道を探求してきた人は強いですよね。一つ極められる人は、どんなプロジェクトでも高い水準で応えることが身体に染み付いていると思います。

例えばスポーツだって当日いくら努力してもダメで、当日までに積み上げてきたことが現れますよね。むしろ当日は頑張らず、リラックスして楽しめばいい。そういうのがいいわけです。

NOSIGNERのスタッフはそれぞれみんな探求しているものがあって、僕も含めてある意味お金のために仕事をしていないので刺激をもらえます。

 

——ワークとライフが合致している人

コロナ禍によって職場=自宅となった時点で、ワークライフバランスという考えも劇的に変化しました。

バランスも何もなくてすべてが混ざって同時進行。デザインのいいアイデアを思いついたら手を動かしてしまうというように、「何時から何時まで働いた」ということよりも、ライフとして向かい合う対象になっていると感じます。

僕自身はワークとライフが合致している人が昔から好きなんですよね。突き抜けていく人たちには少なからずそういう面があるから、そういう人に報いたいと思っています。

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「進化思考」種の起源に記したダーウィンの思想を引き継いで、生物学者でありアーティストであったヘッケ ルが、我々のイメージにある進化系統樹という表現を作り上げた。 (credit:Kunihiko Sato)

 

 

6.ワークとライフを合致させるにはどうしたらよいのでしょうか?

——やりすぎた先にだけ、価値がある

やりすぎることです。好きだなと思えることがあったときに、平均的なところから大きくはみだして、やりすぎてみる。写真が趣味、料理が趣味という方はいくらでもいると思いますが、やりすぎない限り、趣味の域を出ることはない。

恩師の一人の建築家の妹島和世さんが「他の人が完成だと思ったところから、わたしたちはスタートする」と僕が学生のときに言ってくれたのが心に残っていますが、やりすぎた先にしか価値にはなり得ない。結局は対象をとことん好きになる以外ないのだと思います。

個人的には歴史的背景、文化人類的背景を調べる、追いかけるということをやっていますね。人より掘り下げたものだけが、核心に触れた新しい提案になると思うので。

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「DOCK OF BAYSTARS」横須賀市の支援により、横須賀スタジアムがある追浜公園内に「選手寮」「屋内練習場」「屋外練習場」から成る新施設が建設されることが決定。施設のコンセプトやサインデザインをはじめとした総合ディレクショ ンを手がけた。(credit:Tomoro Hanzawa)

 

 

7.いま、やりたいことは何ですか?

——自然、エネルギー、教育、地元‥やりたいことはたくさんある

人の意識を変えるプロジェクトをやりたいです。

水産研究・教育機構と「海に母性があるとしたら」というテーマでインフォグラフィックを進めているものがあるのですが、海の価値を資源と観光面からだけではなく、心理的な側面からも可視化することで、母なる海に貢献するムーブメントをつくることに取り組んでいます。国連もUN OCEAN DECADEを開始しますし、生態系との関係修復は待ったなしです。

20世紀は人間中心に世界が動いてきましたが、いま改めて自然を含めたわれわれを理解することをしていきたい。エネルギー関連のプロジェクトにも多く関っています。

あとは創造性教育を進めていきたいですね。僕が提唱している「進化思考」を軸に、生物の進化のプロセスを発想のためのメソッドに応用して、人の創造性を高め、社会が変わるような新しい価値を生み出す人を増やしたいと本気で思っています。

横浜の街や横浜DeNAベイスターズとのまちづくりのブランディングもしていますが、愛する地元であり、自分の子供を育てていく街として、横浜にも関わり続けたいですね。

自分たちが生きる場所や活動に対して、ポジティブな代案を常に出していたい。やりたいことはたくさんあります。

 

 

8.仕事を通して目指しているものは何でしょうか?

——未来につながる軌跡を残したい

ちょっとマシな歴史を作ることです。

デザインはこんなこともできたんだ!というケーススタディを作って、ひとつ風穴さえ開けておけば、あとは誰かが広げてくれるかもしれない。前例があれば人は動きやすいし、世の中は変わりやすい。

あとはもちろん、かっこいいものを作り続けることです。デザイナーである以上、そこはやっぱり外せないです。

 


 

——取材を終えて

 

太刀川さんにリアルでお会いするのも数年ぶり。事務所の所員も増え、家族も増えてく中、自身の気づきを事務所運営に、事業へとフィットしていく様子は頼もしさを感じました。

コロナ禍、PANDAID立ち上げたこと、東日本大震災でOLIVEを立ち上げたことも社会の課題を自分ごとと捉えて行動する。そのエネルギーにあらためて心を突き動かされました。

「未来を創造的な社会に」とホームページのトップにもうたわれていますが、次の世代が心豊かな社会で暮らしていけるような未来を共に作っていきましょう。

 

 株式会社丹青ヒューマネット

石畑 和恵

 

 

株式会社丹青ヒューマネットは、「働く人を応援し、幸せになる」をミッションとし、建築・インテイリア業界へ人材を輩出しています。人材のことで課題をお持ちの企業様、新しい働き方をお探しの方はこちらへご連絡ください。

 

 

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