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日本の文化・地理・歴史が見える!知れば知るほどおもしろい左官(原田左官)/10代のみんなへ伝えたい、空間づくりの仕事 Vol.1

駅や学校などの大きな建物から、自分の家まで。わたしたちが日常の大半を過ごしている「空間」をつくる仕事には、どのようなものがあるのでしょうか。

さまざまな空間づくりの場に人材を派遣している丹青ヒューマネットから、中学生や高校生のみなさんに向けて、空間に関わる仕事の種類や内容、面白さを伝えるインタビュー企画をお送りします。

わからない言葉は調べたりしつつ、ぜひそれぞれの仕事の面白さを感じてみてください。何かの興味が生まれるきっかけになりますように。

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調色した漆喰を壁に塗る模様付け

文:吉岡奈穂 取材・編集:岩崎美紀(丹青ヒューマネット)

公開日:2020/12/21

 10代のみんなへ伝えたい、空間づくりの仕事 

原田左官工業所
--PROFILE


昭和24年創業。60人の専属職人が在籍し、左官工事、タイル工事、防水工事、組積工事など、年間1500の案件を手掛ける。

職人の平均年齢が30代と若いため機動力に優れ、大型案件にも対応。伝統技術を発展させること、新技術を取り入れることの両軸を大切にしている。女性左官職人が10名いるのも特徴。

代表取締役社長は原田宗亮。

 


 



左官とはどんな仕事ですか?

「左官」とは建物の床や壁、塀などを鏝(こて)を使って塗り上げる仕事のことです。

セメント、モルタル、漆喰(しっくい)、珪藻土(けいそうど)などを塗るため、仕上がりには厚みがあるのが特徴で、薄塗りでも約2-3mm、厚塗りでは約1-2cmになることもあります。わかりやすく言うと、モルタルは粘土で遊ぶようなイメージで、漆喰はスポンジケーキに生クリームを塗るようなイメージです。

塗る仕事の近いものとして「塗装」があげられますが、塗装で使う道具は鏝(こて)ではなくローラーや刷毛です。塗装は基本的に液体を薄く塗り広げていく技術で、漆塗りなどを思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。

塗装業・左官業はどちらも素晴らしい技術であり、左官・塗装の違いは厚みです。

 

 

左官で使う鏝(こて)とはどのようなものですか?

鏝(こて)のバリエーションは10種類程度ですが、日本はなんと1000種類以上もの鏝(こて)があります。

左官で使う鏝(こて)は、平たい鋼の板に持ち手がついたもので、作業の用途によって大きさや材質もさまざま。左官職人はひとつの鏝ですべての作業をするのではなく、塗る場所や仕上げ方によって何十本という鏝(こて)を適材適所に使い分けています。

20年ぐらいの経験を積むと、鏝(こて)を100種類くらい持つこともあります。ちなみに鏝(こて)の約97%が兵庫県で作られています。

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鏝の多彩なバリエーション

 

 

左官は日本独自の技術ですか?海外にもありますか?

欧米では人の手で何cm、何mも真っ平らに塗るということが少ないのですが、日本はその技術に対しての精度が追求されてきました。

また海外ではプラスターという塗り担当、デコレーターという装飾担当に分かれているケースが多いことに対し、日本の左官職人は平らに塗ることから模様を作ることまでを手掛けるなど守備範囲が広いことも特徴です。

日本の風土との関係性もありますね。関東は富士山の噴火により土壌が安定しなかったことから漆喰壁が、関西は土の品質が高かったことから土壁が栄えました。

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カラーモルタルに金網を埋め込み表面を掻いて金網を表面に出した仕上げ

 

 

どのような方が左官職人をされているのでしょうか?

業界全体の平均年齢を見ると60歳くらいですが、原田左官工業所は毎年若い方も入ってくるので34歳です。

東京から仙台、鹿児島、石垣島などさまざまな出身の職人が働いていますね。もちろん高校で建築学科を専攻してきた人もいますが、半分くらいはまったく違うジャンルで、美大出身、大学で外国語や情報処理を学んできた人もいます。営業職や編集職などの仕事を経て、いまは左官をやっているという人もいます。

ひと昔前までは、左官と言えば男性の仕事でしたが、最近は左官をやりたいという女性が増えています。

わたしも子どもの頃から工作が好きでしたが、「自分の手で作る」ということに興味を持たれる方が多いです。

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女性職人 漆喰を天井に塗っている様子

 

 

どうやったら左官職人になれますか?

原田左官工業所ではまず社内で1ヶ月、モデリング訓練をします。

モデリング訓練とは中屋敷左官工業株式会社が発案し、左官の青年部を中心に業界全体で活用している訓練方法で、ポイントは動画をお手本にして「見て習う」こと。「見て習う」が身につけば現場に出たとき、自らどんどん知識や技術を習得することができるからです。

2ヶ月目からは半年間は同じ先輩に教わり、その後いろんな先輩と現場を回ります。3~4年経験を積めばだいぶ自分でできるようになりますが、ひととおりのオーダーに対応するには10年ぐらいは必要だと思います。

材料も道具もたくさんあるので、コツコツ続けていく姿勢がいちばん大切です。

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若手職人 トレーニング風景

 

 

左官の面白さはどのようなことですか?

厚みがあることで、模様をつけたり何かを埋め込んだり、さまざまなこと表情を作れることです。規格品をはめ込むだけではなく手作業で行うため、アレンジは無限。

商業施設では、もみがらや葉っぱ、すすきなど自然のモチーフを埋め込んだり、そばがらやコーヒー豆、牡蠣の殻などの食材を使うことで空間に独自のメッセージを持たせることもあります。

個人の住宅では家族の手形をつけたり、海で拾った思い出のビーチグラスを活かしたり、お客さまのアイデアやご要望をお伺いしながら一緒に作っていくのはとてもやりがいがありますね。きれいに完成して喜んでいただけたときは達成感があります。

世界文化遺産でもある「姫路城」や、挟土秀平さんという有名な左官職人が手掛けた東京の丸の内にある外資系ホテル「ザ・ペニンシュラ東京」など、左官の面白さを目にできる建築物もたくさんあるので、機会があれば見てみてください。

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珪藻土にフェルトの棒で模様を付けて入れた “アート左官仕上げ”  

 

 

仕事をするうえで、大切にされていることはありますか?

人の手を使う仕事で、腕の良し悪しがとても出るので、職人の知識も技術もレベルを揃えていくことを心がけています。

あとはジャンルの違う商品や技術を柔軟に組み合わせることでしょうか。100円ショップに行ってもこれをこう使ったら面白いかな?などとよく考えますね。左官×野菜ピーラーとか。

左官は長い歴史を持つ職業ですが、一方で新しいな、面白いなと思ったものも積極的に取り入れるようにしています。2020年11月にはタイルとテラゾのショールームをオープンし、MIPAとSCALAというイタリアのテラゾを張った床面を作りました。

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特徴的な模様のテラゾータイル張り これも左官の仕事の1種類

 

 

左官について積極的に発信されている理由は何でしょうか?

2011年エクスナレッジムックの世界で一番やさしい建築シリーズから「世界で一番やさしい左官」という書籍を出版しました。名人と言われる職人はたくさんいますが、左官の仕事をわかりやすく伝えるという役割は自分に向いているかもと思い、お受けした話です。

ブログやSNSを積極的に更新している理由も、左官のことを知ってもらいたいという気持ちからです。左官のアレンジは無限とはいっても、まずは左官そのものを知ってもらわないとイメージを膨らませてもらうことができない。ひとつひとつがオーダーメイドでカタログなどでは伝えにくいため、オンラインでの発信に力を入れています。

女性職人が10人いることもありメディアからのお声がけも多いのですが、左官業界を知らせていくため、積極的に受けるようにしています。人前に出るのは得意ではなかったのですが、いつの間にか慣れたように思います。

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調色した漆喰を鏝に乗せる

 

 

10代のみなさんに対するメッセージをお願いします

京都大学客員准教授、エンジェル投資家、教育者として活躍されていた瀧本哲史さんの「2020年6月30日にここで会おう」という本がとても良かったです。

有名大学に入り、上場企業に入り、定年まで勤めあげれば安泰・幸せというモデルが完全に崩壊したいま、大切なことは「替えのきかない自分になること」です。

そうなるためにはいろいろなことを見て、知って、学んで、世界を広げて、自分の興味関心がどこにあるのかを見つけてみてください。

ちなみに自分で身につけたものを発揮できる左官職人は「替えのきかない自分」になりやすい職業だと思っています。

いままでは塗ることがスペシャリストならOKという部分もありましたが、今後はよりプラスの何かが求められるので、若いみなさんの発想やアイデアを活かして、「左官」という職業を未来につないでいってもらえたらうれしいです。

 


 

 

——原田左官工業所を訪問して

伝統ある左官という仕事を未来につなぐために、若手職人を育てる工夫をされていることや、左官の特徴を出した仕上げに挑戦されている話などとても興味深いお話でした。

古来日本の風土に合った仕上げであること、日本中で沢山とれる竹、藁、土といった材料で壁は出来ていたことなどを聞くと実はとってもエコです。

もっと身近な場所で左官を取り入れたりすることができたら私たちの暮らしも豊かになるのではないかと感じました。未来へつなげたい技術です。


株式会社丹青ヒューマネット

石畑 和恵

 

株式会社丹青ヒューマネットは、「働く人を応援し、幸せになる」をミッションとし、建築・インテイリア業界へ人材を輩出しています。人材のことで課題をお持ちの企業様、新しい働き方をお探しの方はこちらへご連絡ください。


 

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