蘆田暢人 / 建築家 - withコロナ。これからの働き方を探る Vol.1
コロナ(COVID-19)が世界的に猛威をふるい、わたしたちの働き方、生活も変化を余儀なくされました。オフィスには出社できず、多くの会社がテレワークにシフト。
急激な変化に対応するなかで、「働く人を応援し、幸せになる」をミッションに掲げる丹青ヒューマネットは、改めて働くことについて考えてみたく、建築・デザイン業界に従事されている方々にお話しを伺っていきます。
公開日:2020/06/25
withコロナ。これからの働き方を探る
--PROFILE
蘆田暢人建築設計事務所 代表、ENERGY MEET 共同代表、Future Research Institute 共同代表、千葉大学非常勤講師。
1975年京都生まれ。1998年京都大学建築学科卒業、2001年京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。
2001-2011年内藤廣建築設計事務所勤務。2012年 ㈱蘆田暢人建築設計事務所設立。同年 ㈱ENERGY MEETと共同設立。2017年より千葉大学非常勤講師。2018年 ㈱Future Research Instituteを共同設立。
代表作に「折板屋根の家」、「松之山温泉景観整備計画」、「キールハウス」、「ryugon」など。これからの建築士賞、グッドデザイン賞、神奈川建築コンクール優秀賞、Asia Design Prizeなど受賞多数。
1.最近はどのようなお仕事をされていますか?
——建築、エネルギー、リサーチと3つの事務所を運営
現在は、建築を基本に、エネルギー、リサーチと3つの分野を専門にした事務所を運営することで、家具から建築、土木、まちづくりまで、さまざまな領域を横断しながらプロジェクトを進めています。
3つの事務所が協業しているプロジェクトのひとつには、長野県小布施町で進行中のエネルギーを軸にしたまちづくりがあります。
このプロジェクトの目的は、自然エネルギーで町内の電力自給100%を実現し、環境都市のモデルとなること。
Energy Meetが主体となり全体ビジョンの構築や地域のみなさまとのワークショップの開催を行い、蘆田暢人建築設計事務所は、建築の企画設計や小水力発電所のデザイン検討、意匠設計などで関わっています。都市のリサーチなどはFeature Research Instituteが担い、それぞれが連携しています。
熱海の塔状住居 Atami, 2020
[地形と構法から形を生み出す]
熱海の急傾斜地に計画されたこの住宅では、海へと広がる雄大なビューを最大限に獲得するため、クライアントからはリビングルームを4階レベルに設け、各室を下層階に配すること求められた。
海から吹く風が強く、風による振動を防ぐためにRC造を採用することとしたが、必要な室ヴォリュームと求められた高さを確保するには、塔状の形状と最上階に大きなヴォリュームが必要であった。
急傾斜地の敷地でのRC造の施工を考えると、最上階がキャンチレバーとして張り出す建物の形状は無理がある。支保工を建てることができないためである。そこで、求められた各階のヴォリュームをずらしながら積んでいくことで、一層下の階が支保工の土台となり、求められたヴォリュームと高さを確保することができた。
ずらすことで生まれた空隙には、テラスや将来増築が可能なスペースを設けた。(写真:井上玄)
2.仕事の面白さはどんなことでしょうか?
——建築の仕事は、やりがいしかない
建築のプロセスは年単位にも及び、当然良いときも悪いときもあるので、それをしっかりコントロールする必要があります。
さまざまな立場の人が関わるところに、積極的にコミットすることでこそいいものができるので、プロジェクト全体を見渡しながら、設計やデザインから重要な側面を担っていくのが面白いですね。お金の原理を中心に物事が動きそうなときも、フラットな視点に立つことを心がけています。
一番好きなのは図面を描いたり、模型作ったりすることなのですが、すべてを通してやりがいしかない。
あとは単純に、想像よりもいいものができたときや、新しい考え方が体現できたときはうれしいです。
20代の頃はとにかく自分が納得するもの、美しいもの、いいものを作るというアウトプットにこだわっていましたが、20年のキャリアを経て、社会の中で建築が果たせる責任や、自分ならではの役割があるはずだと思うようになりました。
——知識を得て、かたちにしていく面白さ
住宅、オフィス、店舗、公共空間など、基本は一緒だとしても初めて取組むタイプの建物は知らないことが多く、新しい知識を得ていく過程も楽しいです。
2019年に新潟県南魚沼市にリニューアルオープンした旅館「ryugon」もそのひとつ。僕は建築のプロだけれど、雪に関しては素人、旅館を手がけるのも初めて。そんな中で地域の人たちに雪国の知恵を教えてもらいながら、作りました。
日本には、東京や京都は認知度も高く、観光客もたくさん訪れますが、ポテンシャルはあるのに知られていない地域がまだまだある。食やイベントなどソフトに力を入れていくやり方が多い中で、建築というハードを通して地域の魅力を伝えていくのはとてもエキサイティングです。
ryugon Minami-Uonuma, 2019
冬の積雪が2mを超える新潟県南魚沼市にある、創業約50年の老舗温泉旅館「龍言」の改修プロジェクトである。過酷な冬と雪を、自然から与えられた恵みとして捉え直して活かし、雪国を象徴する新しいサスティナブルな旅館として再生することを目指した。
建物は19世紀に建てられた古民家を移築してつくられていた。豪雪に耐えるための骨太で重厚な佇まいを今に残しており、一部は国の登録有形文化財に指定されている。雪国の建築は雪に対峙するために、極めて機能的で即物的な形状をもつ。龍言ではそれが過度になってしまっており、建物は暗く閉ざされていた。
我々が試みたのは、その閉塞的な要素をすべて取り除くことであった。窓もなく閉ざされた長い廊下を外部化して風景や風との接点を増やし、風通しを確保するために一部の棟を解体した。徹底的な引き算のデザインを行い、建築と自然が接続されることで、歴史を引継ぎながらも、雪国の四季の豊かさという全く新しい価値を感じることのできるryugonへと生まれ変わった。(写真:繁田諭)
3.コロナ流行を経て、仕事における変化はありましたか?
——各種ツールを使って、家でできることは家でやる
4月1日から8人全員をテレワークとし、緊急事態宣言が解除されるまでは自宅で仕事をしてもらいました。
今後は様子を見ながらですが、大量の出力、大容量のデータの受け渡し、模型の制作、確認申請書類の捺印など以外は、自宅でもよいと思っています。会議はオンラインで問題がないし、図面を描いたり、CGを作ったりすることは家でもできるので。
使っている主なツールは、Zoom、Slack、Dropbox、LINEですね。さまざまなものがあるので自分たちの仕事には何がよいのか、Dropbox Paperなどその他のツールも試している最中です。
子育て中のスタッフもいますが、これからも在宅ワークを活用して、仕事とプライベートの両立をしてもらえたらと思います。
——住む場所は自由になり、家自体に求める要素も変わるかもしれない
自宅で仕事をすることが増えると、必ずしも職場の近くに住む必要もなくなります。
ちょうどいま金沢在住の方をZoomで面接し、2ヶ月の試用期間が始まるのですが、その間ずっと金沢で仕事をしてもらうことにしました。採用の在り方も大きく変わると思います。
家自体は庭、テラス、バルコニー、屋上といった屋外空間が求められるかもしれません。僕も自粛期間中に自宅のバルコニーにウッドデッキを作り、そこで本を読んだりして過ごしました。
家がオフィス機能を兼ねると、広々とした1LDKよりも夫婦それぞれが仕事部屋を構えるような3LDKなど、個室ニーズが高まることも考えられます。
——より積極的なコミュニケーションの場づくりを
空気感や熱量など言葉にしにくいもの、対面だからこそ伝わるものを補うためにも、テレワークでは意識的にコミュニケーションをとることが大事だと感じます。
事務所に来ることで自然発生していた会話を意識的に作る必要がありますし、全体のムードづくりには気を遣わなければならない。
なので毎日10時に朝礼、20時に終礼をして、1日2回は画面越しに顔を合わせて、それぞれの仕事内容や進捗、連絡・相談事項、雑談などをしてチーム全体の動きをお互いに共有できるようにしました。自分があえて参加せず、スタッフが気兼ねなく話せるようにすることもありますね。
またオンライン飲み会を開催して、プレゼンしてもらったり。以前から事務所でも行なっていたのですが、海外で見てきた建築とか、好きな映画シーンの編集とか、順番にプレゼンテーションをしてもらって、お酒を飲みながらワイワイ話す。自分の言葉で伝えるトレーニングも兼ねているし、個々の興味や関心もシェアできるし、楽しいひとときです。
キールハウス Yokohama, 20170
横浜の傾斜地に計画した在来木造2階建の住宅である。傾斜地の地盤上に安定的な躯体をつくるために斜面側の基礎の根入れを1.1m深くしている。そうしてできた段差を利用して、そのまま床をずらしながら積んだため、2階建ながら4層の床が生まれることになった。4層の床を繋ぐ階段を螺旋状に配置することで各層を連続して繋げ、床と床の間から光が差し込むことで、全体に光が回り込むような一体感のある空間を実現した。
構造的には、無柱のワンルームの空間をつくるため、大きなキールトラス梁をかけている。屋根にはソーラーパネルを設置したため、勾配を南に向ける必要があった。そのため斜面の方向に向けてキールをかけ、空間の軸が風景に向かうように意図した。キールはこの住宅の主構造であるとともに、夏には直接光を遮り間接光を取り込むことで暑さを防ぎつつ明るさを確保し、冬には直接光を取り込むことで明るさと太陽の温もりを確保する環境制御装置となっている。
この敷地の両隣は隣家が接近しており、窓を設けても心地よい光は望めない。隣地側には窓を設けず、キールから光を取り込むことで、密集住宅地の中にあっても光の充満する明るい居住空間を設けることができた 。(写真:繁田諭)
4.どんな人と働きたいですか?
——話す力と聞く力のどちらもがある人
明るくてコミュニケーションが気持ちよく取れる素直な人です。
まず履歴書とポートフォリオを見ますし、技術やセンスももちろん大切ですが、そこは経験で伸ばすことができる。建築をかたちにするのは、自分の考えやプランを施工者に伝えることから始まるので、コミュニケーションスキルは必須です。
そして素直なこと。自分の思想や趣向を持ちつつも、周りの意見を柔軟に取り入れられること。従順である必要はないけれど、素直さは成長するためのベースになると思います。
仕事で必要なスキルを100としたら、新卒では10くらいの状態。図面を書き込む技術を取得するのは3年ほどかかるので、先輩の言葉に耳を傾ける姿勢は大切です。
5.今後やっていきたいことはありますか?
——発信に力を入れ、場所にとらわれない仕事を
所員8人のうちふたりが台湾、ひとりがドイツのスタッフで、いまは英語、中国語、ドイツ語、フランス語に対応できることもあり、海外のプロジェクトを増やしていきたいです。
もともと国内外いろいろな場所に行くのが好きですし、多様な国、気候や風土、文化と関わりながら仕事をしたいと思っています。
また、発信にも力を入れたいですね。コロナ禍によって、建築業界にも少なからず影響がある中で、強く美しい建築を追求すること、建築的思考を拡張すること、新しい表現を発信することを改めてまとめ、スタッフにも伝えました。
今後はますます「誰と仕事をするのか、なぜするのか」が問われてくる。場所にとらわれない、多様性を活かした仕事をやっていきたいと考えています。
——取材を終えて
蘆田さんの事務所にお伺いして取材を行いましたが、事務所は蘆田さんお一人。働く環境は、既に変わっていることと改めて実感しました。
コロナ禍の中で、所員とのコミュニケーションのあり方や、仕事の関わり方進め方など試行錯誤しながらも、前を見ている蘆田さんの力強さを改めて知った次第です。
手法や物質的距離感は変わったけれど一緒に働く人に求めるものは変化なく、人が関わる部分の重要性や関係性の構築など大切な部分がはっきりとした日になりました。過去を学び、未来志向の蘆田暢人建築設計事務所が楽しみです。
株式会社丹青ヒューマネット
石畑 和恵
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