空間にデジタルで新たな可能性を拡げる(丹青社)/10代のみんなへ伝えたい、空間づくりの仕事 Vol.10:前半(制作チーム)
CMIセンター自主実践プロジェクトメンバーとAIRエアホッケー
文:吉岡奈穂 取材・編集:丹青ヒューマネット
公開日:2022/05/16
10代のみんなへ伝えたい、空間づくりの仕事
駅や学校などの大きな建物から、自分の家まで。わたしたちが日常の大半を過ごしている「空間」をつくる仕事には、どのようなものがあるのでしょうか。
さまざまな空間づくりの場に人材を派遣している丹青ヒューマネットから、中学生や高校生のみなさんに向けて、空間に関わる仕事を伝えるインタビュー企画をお送りします。
今回は、丹青社のCMIセンター(クロスメディアイノベーションセンター)が行っている自主実践プロジェクトについて、メンバーのみなさんにプロジェクトを通して見えてきたものや自身の仕事についてインタビュー。
前半は、若手メンバーで構成された制作チームにお話を伺いました。
--PROFILE
丸下麻美/CMIセンター 空間メディアプロデュース統括部/プランナー
高田和実/CMIセンター 空間メディアプロデュース統括部/プランナー
五十嵐優作/CMIセンター 空間メディアデザイン部/プランナー
大塚啓太/CMIセンター 空間メディアプロデュース統括部/プランナー
石田裕美/CMIセンター 空間メディアプロデュース統括部/課長
まず始めに、丹青社の「CMIセンター」について教えてください。
石田:
もともと丹青社には主に文化施設の音響や映像システムを手がけていた専門チームがありました。そのチームを拡大するかたちで2017年に設立されたのがCMIセンターです。
いまはまさにDX真っ盛りですが、それを見越して、機材類などのハードだけでなくソフトを扱う人材が加わりました。2021年にさらにメンバーが増強され、現在は空間体験の価値をデジタルで最大化・最適化する専門チームと位置づけ活動しています。
若手からベテランまで個性あふれる人材が集まっていて、多様性を絵に描いたような部署だと思います。
今回の「自主実践プロジェクト」が始まったきっかけは何ですか?
石田:
本社のエントランスに全長12mのビッグテーブルがあるのですが、この場を活用できないか?という話がありました。そこで企画したのが「AIRエアホッケー」というプロジェクションゲームです。
その具現化にあたって「自主実践プロジェクト」を立ち上げ、1.空間をデジタルで変容させる実証実験、2.社外パートナーと協業・共創するオープンイノベーションの推進、3.若手クリエイターを主役にした社内の人材育成、という狙いを持たせることにしました。
2021年3月に企画が生まれて、5月にメンバーが決まり、6月からブレスト。実制作は9月から始まり、2022年2月に第1弾として発表しました。
「AIRエアホッケー」はどんなゲームですか?
大塚:
センサーやプロジェクションマッピングを活用したインタラクティブなデジタルホッケーゲームです。特別なデバイスは必要がなく、テーブルに手をかざし、非接触のセンサー反応で投影された光のボールを弾き返せるのが特徴です。
登場するボールは4種類あって、カーブしたり、弾けて複数のボールになったりと変化します。これらのボールを使いこなして、相手ゴールにシュートを決めて遊ぶというものです。
若手クリエイターが主役ということですが、参画したメンバーはどのように決まったのでしょうか?
丸下:
わたしは中途入社で、まだ2年目だったので、いろいろな経験を積んで欲しいという意味で声がかかったのかなと思います。
高田:
これまで映像制作に携わってきたのと、常々モーショングラフィックス映像をつくりたいと伝えていたので、そこを汲んでくれたのかなと思っています。
五十嵐:
プログラミングを得意としていて、普段からプログラマーとしてクライアントワークに関わることが多かったので、今回もそれを期待して声がかかったのだと思います。
大塚:
所属する課の中で一番年齢が若かったからかなと思います(笑)。
石田:
各部署の上長から皆、推薦されて集まりました。全員職名がプランナーなのですが、それぞれやっていることや得意分野が全然違うという、納得のメンバー構成でした。
このプロジェクトはどのように進められたのでしょうか?
石田:
わたし自身も2021年にCMIセンターに異動してきたばかりだったので、「はじめまして」の人が多かったんです。
コロナ禍だったのでミーティングはオンラインでぎこちなく始まったのですが、実験や実機テストのときにリアルで顔を合わせることで徐々にチームがまとまっていきました。
センター長の菅野から、「それぞれ役割を持つように」という指示もあったので、担当を決めて進めました。やることの方向性は提示しましたが、自分が担当するものをどこまでこだわるかは各自に突き詰めてもらいました。
五十嵐:
具体的には、まず協業先として、curiosity株式会社(https://www.curiosity-inc.jp)という制作会社にお声がけしました。
足で光のボールを蹴って楽しむデジタルスポーツ「Hockel(ホッケル)」というアトラクションを既に開発されていたので、それをベースにカスタマイズしていくことで、自分たちがかたちにしたいことを実現できると考えたからです。
そこからさらに、当社と業務提携をしている株式会社プリズム(https://www.eizou.com/)とも連携し、実装に向けてプロジェクトを進めていきました。
担当した役割の中で自分のスキルをどのように発揮しましたか?
丸下:
わたしは協業する会社や社内の調整も含めて、全体を統括しました。
「全体を見る」というと、自分が引っ張っていかなければと意識しがちですが、今回は各メンバーが分担して業務を進めるなかで埋まってない部分とか、欠けている部分を埋めるようにプロジェクトを推進しました。全体を整理しながら必要な動きをすることに集中できたかなと思います。
高田:
斜幕に投影した待機映像とテーブル映像のモーショングラフィックスを担当しました。尺やコンテも決まっていなくて、とても自由度の高い中で取り組めたので、動き、リズム、トーン&マナーなどを全部自分で考えて、最終的に楽しい雰囲気のものができたかなと思っています。
五十嵐:
空間のCGパースを起こすところから始まって、照明や演出のプログラミング、ゲーム中に得点と時間を表示させる映像、メンテナンスにいたるまでを担当しました。主にUnityというソフトを使ったのですが、さまざまな技術を活かせたと思います。
大塚:
わたしはゲーム空間のモニターに流す解説動画や竣工動画の制作を担当しました。普段はテキストベースの業務が多いので、動画制作は学生以来で5年ぶりくらいでした。
ソフトの使い方とか、表現の仕方を思い出しながら進めて、見やすい紹介動画になったかなと。構成も撮影も編集も一人でやったので、制作中はYouTuberみたいな気持ちになりましたね(笑)。
動画制作と言っても、テンプレートにデータをはめていく簡易的なものから、すべてをつくり込むような本格的なものまで、いまはたくさんの手法があるので、改めてそれらを学ぶいい機会にもなりました。
印象に残っていることはありますか?
丸下:
ビッグテーブルが設置されているのはオフィスのエントランスで、天井高も低く、投影距離があまり取れないのと、テーブルも12mと巨大だったので、ここに映像を投影するのは難しいのでは?と言われていた中で、さまざまな人の力を合わせて結果的に具現化できたことです。
通常のクライアントワークだと、まずお客さまからの依頼があってそこに応えていくのですが、ある意味で今回は拠り所がなかったので、(これはほんとうに面白いのか?)を何度も考えました。みんなで話し合ったものが今回の正解だよね!という気持ちでした。
高田:
普段はコンペの対応業務が多くて、何十ページ、何百ページもあるような企画提案の一部を担当するのですが、今回は1年をかけて企画から制作、設営まで、たくさんのメンバーとやりとりしながら関われたことがうれしかったです。
五十嵐:
協業会社との共同開発というのが楽しかったですね。「AIRエアホッケー」は約3ヶ月間展示するので、その間、予期しないようなトラブルが発生しないように目を配っています。
通常業務ではデザイナーが画を決めて、僕が実装するという役割分担ですが、今回はデザインも自分で手掛けたため、デザイナーの働きが再認識できました。
大塚:
制作した各動画を、展示期間中の決まった時間に流すというループのスケジュールをプログラミングしました。わたし自身、初めての取り組みだったので達成感がありました。
また、普段は単発のウェビナーをサポートすることも多いのですが、今回のように自分で伝えるべき内容を決めて、長期間流れ続ける映像を制作できたのは、大きな経験になりました。
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春の特別バージョンの会場映像をご紹介しています。
CMIセンターのようなデジタルを活かした空間づくりの分野は、どんな人が向いていると思いますか?
丸下:
正解がないものを考え続けて、自分たちで一番いいと思うものをかたちにしていく仕事なので、基本的にものづくりが好きな人だと思います。情報に敏感でフットワークの軽い人もいいですね。知識を掛け合わせることでアイデアが生まれることもよくあるからです。
高田:
好きなものがあるのは強みになります。わたしは廃墟やダムなどに興味があって、それは誰とでも話が合う話題ではないのだけれど、独自の視点みたいなところが活かせていることはあると思います。
大塚:
好きなことがあって、さらにそれを自分の中に溜め込んでいるだけではなくて、伝えたい、発信したい、表現したいとか思うタイプの人かなと。
あとこれはどんな仕事にも共通すると思うのですが、自分が関わっていることに自分なりの面白いポイントを見つけられる人。能動的に面白さをつくれる人は、どんな仕事でも力を発揮できる気がします。
五十嵐:
あとは複数のスキルがある人もいいと思います。ひとつの専門性を伸ばすことも大事ですが、プログラミングができて、さらにこれもあれもできるという動き方ができる人は、今後さらに求められてくるように思います。
制作チームのみなさんより、10代のみなさんに対するメッセージをお願いします。
丸下:
どんな会社や仕事を選んでも、いいこともあればそうではないこともあります。仕事という枠にとらわれすぎないで、自分はどんなときに楽しいと感じるのか、どんな人生を作っていきたいかを大きく捉えるということができたらいいのかなと伝えたいです。
五十嵐:
何かにこだわりすぎなくてもいいし、フラットに全体を見ることは大事だと僕も思います。
大塚:
興味のあることは何でもやってみたほうがいいです。体験して、それを誰かに伝えたらまた次の展開があって、というように自然と何かが始まっていくので。
高田:
技術でも何でも「これは自信がある!」というものをひとつ持てると、それは自分の助けになります。オールマイティにできるのも良いことですが、自分なりの強みを見つけることも重要なのではないでしょうか。
取材を終えて
仲間と一つのテーブルを囲んで実際にやってみると、「AIRエアホッケー」は楽しくかつ運動になりました。
今回実装に力を出した皆さんは、いわゆる若手、そのメンバーが一つの目標に向かって自分の能力や技術的スキルを発揮するこういった機会は必要なことだと思いました。お話を聞いていると、皆さん苦労したことも楽しくお話してくださって嬉しくなりました。
リアル空間に新しい体験価値をどんどん生み出していくそんな期待が高まる取材となりました。
株式会社丹青ヒューマネット
石畑 和恵
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