まるでSF映画の世界!? VRやARを超えたMR技術で建築業界を技術革新(ニコン・トリンブル 春岡裕史 山元環)/10代のみんなへ伝えたい、空間づくりの仕事 Vol.3
駅や学校などの大きな建物から、自分の家まで。わたしたちが日常の大半を過ごしている「空間」をつくる仕事には、どのようなものがあるのでしょうか。
さまざまな空間づくりの場に人材を派遣している丹青ヒューマネットから、中学生や高校生のみなさんに向けて、空間に関わる仕事を伝えるインタビュー企画をお送りします。
今回は最先端のMixed Realityと呼ばれている技術を活かして、建築へ革新技術をダイナミックに進めている「ニコン・トリンブル」の春岡裕史さん、山元環さんにお話を伺いました。
現場での活用イメージ
文:吉岡奈穂 取材・編集:岩崎美紀(丹青ヒューマネット)
公開日:2021/2/19
10代のみんなへ伝えたい、空間づくりの仕事
--COMPANY PROFILE
日本初の光学機器メーカー「ニコン」と、GPS(全地球測位システム)受信機のパイオニアであるアメリカの「トリンブル」の合弁会社として2003年に設立された大手測量機器メーカー。
GNSS/光学/レーザ/IMU(慣性測位装置)/画像処理などによる計測の技術と、ソフトウェア、通信、ITを軸にした製品やサービスの提供を行っている。
ニコン・トリンブル社はどんな会社で、どんな事業を手がけていますか?
ニコン・トリンブル社は、日本初の光学機器メーカーであるニコンと、GPS(全地球測位システム)受信機のパイオニアであるトリンブル社の強みを活かした合弁会社で、地理空間情報の分野における製品やサービスを通して、そこにまつわる方々の働きやすさをアップさせていく会社です。
事業領域は「測量・調査」「土木」「建築」「インフラ維持管理」「農業・林業」「変位計測」「空間情報計測・GIS」「自動運転・自律走行」の8つで、少し難しいかもしれませんが「GNSS」「光学・レーザ・画像」「ジャイロ・慣性」「製造」という4つの技術を中心にして、ソフトウェアを組み合わせることで、それぞれの事業領域をサポートしています。
建築の分野ではどんなことをしていますか?
設計者が引いた紙の図面を現場で読んでかたちにしていったり、先輩の背中を見て後輩が育ったりなどといった昔からのやり方が残っている建築の分野には、新しい技術を活かすことで成長できるポイントがたくさんあります。
まずは紙の図面からBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)に移行していくこと。
PC上に作成した3次元のモデルに、設計から施工、維持管理にいたるまであらゆる情報をまとめることで、仕事を格段にスムーズにしていくお手伝いをしています。
近年ではマイクロソフト社と技術提携し、 “HoloLens(ホロレンズ)”を活用した「Mixed Reality」のデバイス、クラウドアプリの推進に力を入れています。
「Mixed Reality」とは何でしょうか?
現実世界の情報に重ね合わせてデジタルの情報を表示するのがAR(Augmented Reality:拡張現実)で、完全にデジタル映像の世界に入り込むのがVR(Virtual Reality:仮想現実)であるのに対し、現実の状況をデバイスが把握し、デジタル映像をぴったりと重ね合わせることができるのがMRと言われるMixed Reality(複合現実)です。
Mixed Realityはユーザーの動きを認識するセンサ技術が組み込まれているため、ホログラムを空間に固定することができます。
その上で固定したホログラムを歩き回りながら確認したり、拡大や縮小、回転、分解などの操作も行えるため、デジタルのコンテンツをまるで実在する物のように扱うことができます。
現実世界と仮想世界の両方の情報をみんなで同時に共有できるのも大きな特徴です。
「Mixed Reality」は、建築の分野でどんなことができますか?
例えば新しい建物を設計したいときの完成イメージを実際のスケール感で確認したり、意匠や環境を検討したりするときに、ホログラムを見ながら議論をすることができます。
建物をリノベーションしたいときに、実物では見えない配管や配線などの内部構造をチェックするにも役立つでしょう。
PCとの接続が不要なので、現場では何も持つ必要がなく、操作しながら自由に動き回れます。
プロジェクトメンバーが同じ場所に集まる必要すらもなく、それぞれの場所に分散していても同じMR(複合現実)を見られるので、効率的に仕事を進めることができます。
ニコン・トリンブル社では「Mixed Reality」を活かしたどんな製品やサービスがありますか?
ひとつが、ヘルメット一体型のMixed Realityデバイス「Trimble XR10」です。
かぶっている人の頭の動きを感知するヘッドトラッキング機能や、コントローラーを使わずにVR空間にあるものを手で操作できるハンドトラッキング機能も搭載されているので、直感的に操作することができます。
耳を使わずに周りの音を聞きながら使える骨伝導ヘッドセットも採用されているため、安全に直接3Dデータを運用できます。
もうひとつが3Dの設計データをクラウド上で3Dモデルに変換・活用できるクラウドサービス「Trimble Connect for HoloLens」です。
これを導入すれば、現場に行かなくてもトレーニングができたり、機材を導入する経路を調べたり、関係者みんなで図面の整合性を確認したり、作業の優先順位を決めたり、遠隔で指示を出したりすることが可能になり、時間の短縮や工数の削減にもつながります。
「Trimble XR10」と「Trimble Connect for HoloLens」の具体的な活用例を教えてください
「Trimble XR10」は、発売して半年経つのですが月数十台ペースで出荷しています。
例えばコロナ禍でオンラインショッピングの需要が高まったことで、製造分野の現場拡張から、物流倉庫の建て替えまで急ピッチで進んでいる状況があり、その現場を迅速に進めるために使われているケースなどがあります。
3Dモデルを画面共有して、オンライン上で修正や変更を入れたり、タスクをピックアップしたり、作業の途中段階を全員が正確に理解できるところが評価されていますね。
建築分野に絞って言えば新築よりも、既存の建物のリノベーションやメンテナンスをされる方に活用されています。
あと実はコロナ禍で出張に行けなくなった製造業の方からの問い合わせは今も増えていて、全国にある工場を「Trimble XR10」と「Trimble Connect for HoloLens」でつないで、指示をしている使い方もあります。
「Mixed Reality」が広まるなど、建築や空間の未来はどのようになっていくと思いますか?
「Trimble XR10」の話でいえば、ひとつの工場やひとつの現場に最低1台は取り入れられていくと思っています。
ユーザーの職種の数だけMixed Realityの使い方が広がりますが、従来の仕事のやり方ではいずれ立ち行かなくなるはずなので、どこかの分岐点で一気に広まるようなことも予測しています。
建築や製造のフィールドだけではなく、教育や福祉、エンターテイメントにも活用されていくかもしれません。
そもそも5年後、10年後にはいまある業界地図も様変わりするのではないのでしょうか。
いまある製品やサービスがそのままあるとは考えないほうがいい。当然Mixed Realityも進化していくし、使いやすさに対しても違う回答が示されるようになる。
だからこそ各自が好きなことを突き詰める姿勢が大切で、それが未来を切り拓いていくと思います。
ニコン・トリンブル社の仕事の面白さはどのようなことでしょうか?
まだ世の中に出ていない技術を開発して広めていき、新しい流れを作れるところがエキサイティングです。
わたしたちの得意とする技術は「はかる」ということで、農業や林業、土木、建築など人間の生活に欠かせない産業を支えているので、それらの業界が廃れることのないように、新しい価値を打ち出し続けていかなければなりません。
仕事の向き合い方としては、技術を知り、製品化し、浸透させていくまでのすべてに関われるのが魅力だと思っています。センサをはじめとする最先端の分野に触れるので、毎日が発見の連続で刺激的です。
10代のみなさんに対するメッセージをお願いします
春岡:
私は九州で生まれ育ったのですが、10代の頃は新しいもの、かっこいいものに飢えていて、何とか海外の情報をキャッチしたいと思い、なりふり構わずに英語の勉強ばかりしていました。
大学時代はPCも大好きだったのでアメリカの最先端のコンピュータ情報を翻訳して出版社に買ってもらったり。
卒業してからはアメリカ人の友人と翻訳会社を立ち上げたのが最初のキャリアですね。ちなみにその頃、AppleのコンピュータMacintosh IIを日本でもいち早く購入しました。
そこからパソコンでデザイン作業を行うデスク・トップ・パブリッシングの仕事へ拡張し、その後パソコンで映像情報をやり取りする仕事へ手を拡げ、数十年経った今は最先端の拡張現実の仕事に携わることができています。
みなさんにお伝えしたいのは「好きなことをやろう、ないなら探そう」ということ。
音楽でもゲームでもファッションでもなんでもいい。我慢は必要ありません。自分のやりたいことを追求することが、結局は自分も周りもハッピーになると思います。
山元:
私は小さい頃より“科学”という分野が好きな子どもでした。家電をいじったり分解したり、テレビをつければ “人体の不思議”や“○○実験”などのチャンネルにくぎ付けでした。
人間は常にモノづくりをしており、そんな世界で新しいモノをサービスする仕事はとてもチャレンジングです。
ワクワクする分野でありながらまだまだ理系に進む女性は少ないという現状があります。皆さんがイメージする理系の世界は地味なものかもしれませんが、今後どんどん細分化され新しい職業が増えていくでしょう。理系女子もどんどん増えてきています。
ぜひ身の回りの不思議に興味を持って、安心してモノづくりの世界に飛び込んでいってください。
——取材を終えて
空間づくりにおいては、人に依存する部分も多く、特に内装インテリアでは現場は人の手に委ねられています。コロナ禍だからこそ、人の接触を減らしていくなどの新しい手法が必要になってくると思います。
今回お伺いし、これからの可能性のお話を聞くことができました。ヘルメットを装着し、VRとリアルを同時で確認でき、距離が離れていても同じ空間を見ること、BIMとの連携が可能なことなど、ワクワクした次第です。
近い将来の現場には、革新的な技術と古くからの伝統技術や伝承された技術がミックスされているのだと思いを馳せるばかりです。楽しみがまたひとつ増えました。
株式会社丹青ヒューマネット
石畑 和恵
株式会社丹青ヒューマネットは、「働く人を応援し、幸せになる」をミッションとし、建築・インテイリア業界へ人材を輩出しています。人材のことで課題をお持ちの企業様、新しい働き方をお探しの方はこちらへご連絡ください。