株式会社丹青ヒューマネット
TOP > メディア > コラム > 東宝スタジオで美術製作に触れる!製作現場 見学レポート
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

東宝スタジオで美術製作に触れる!製作現場 見学レポート

東宝スタジオの外観

文・編集・取材:丹青ヒューマネット
公開日:2024/1/23

空間づくりの業界で活躍する人材を送り出している丹青ヒューマネットでは、社内のデザイナー・施工管理者を対象とした勉強会を実施しています。

本記事では、2023年12月に株式会社東宝映像美術で実施された、第三回目の製作現場見学の様子をお伝えしていきます。

 

「ココロオドル」をつくる東宝映像美術

映画・演劇を中心に数多くのエンタテインメント作品を提供し続けている東宝グループ。そのなかで、東宝映像美術は映画の世界で培った、美術と映像に関する製作ノウハウによって、お客様の「ココロオドル」をつくりだしています。

2021年にも取材させていただきましたが、今回は東宝映像美術の主な拠点がある東京都世田谷区の東宝スタジオを総勢8名で訪問しました。

第三回目の勉強会は、「美術製作」がテーマ。株式会社東宝映像美術にご協力いただき、映画やTV、動画配信サービスで使われている実際のセットや、セットの製作現場を見学しました。デザイナーや施工管理者はふだん携わる内装との共通点や異なる点を知り、新たな学びを得ることが目的でした。

 

東宝スタジオを見学!

東宝スタジオの見学の様子

左側にあるのが、大きな“7スタジオ”の外観

映画やTVのセットを製作している美術製作部、映像から文化・商業施設の内装、各種イベントの製作など多岐にわたるプロジェクトを手がける企画営業部、日本有数の大型テーマパークでショーセットなどの製作や管理を行っている千葉支店と3つの部門から構成されている東宝映像美術。

企画営業部の長濱さんから東宝映像美術の概要を説明いただいた後、まずは“7スタジオ”と呼ばれる大きなスタジオから見学がスタートしました。

“7スタジオ”には、豪華な部屋のセットが製作されている途中で、4階建ての高さのあるスタジオの天井から屋根部分が吊られていました。このスタジオ内を案内してくださったのは、このセットの製作を担当している美術製作部の三井さん。

セットの大きさに圧倒されつつ、施工管理職のスタッフたちからは「大型スタジオだから、扉も大きいよね!普通の扉の倍の厚さがあるんじゃない?」、「これって防音扉?それとも防火扉?」、「消防点検も必要なの?」などの質問が相次ぎました。

エレベーターでスタジオの天井近くに設置された狭い通路“キャットウォーク”まで上がり、上からセットを見せていただきました。実際に上ってみると想像より高くて、ここで作業をするということに驚かされました。

続いて、見学したのは製作している現場。建具製作室や塗装部を見学させていただきました。

セットは本物を再現するのではなく「本物に見えればいい」そうで、作品によって製作に掛けることのできる期間は異なりますが、1週間ほどという短いものもあります。

東宝スタジオ内での作業の様子

東宝スタジオ内での作業の様子

どの方も明るい表情で、いきいきとお仕事されていたのが印象的でした。

東宝スタジオ内での作業の様子

 

この後、見学したのは、建具倉庫や、小道具・装飾倉庫です。

倉庫内

ブラウン管テレビが並んでいる様子

懐かしいブラウン管テレビもこんなに並んでいました。

たくさんの舞台道具

モスラの壁画

モスラの壁画。スタジオの場所を電話で伝える際、「モスラを右に!」など目印としても使われるそうです。

東宝スタジオには敷地内に神社があります。この枚岡神社で、撮影が無事に、そして安全に進むことなどが祈願されています。

東宝スタジオ敷地内の神社

東宝スタジオ敷地内の神社

 

スタジオは広く、敷地内には川が流れています。桜の木がたくさん植えられているので、春はとてもきれいなことでしょう。

東宝スタジオ敷地内に流れる川

 

美術製作の醍醐味!なぜこの仕事が楽しいのか

見学を通して、内装と映画やTVのセットの違いを各自が感じながら、美術製作部の近藤さんからセット製作について現場のリアルな声を伺いました。

 

─ 作品のセットが完成するまでの流れ

まず監督とメインのスタッフで、どのようなセットが必要かを考え、デザイナーが画を起こします。その画角に対してどのぐらいの大きさが欲しいのかということを検証した上で、図面が私たちのところへ下りてくるので、予算がどのくらい掛かかるかを算出します。

イメージは画や寸法にもありますが、具体的にどのようなシーンでどんなことを撮りたいかによって強度の問題や、ただのパネルでいいのかなど、どのようにしたらベストなのかを考えます。

一番いい状態で掛かる金額を計算したときに、予算とのズレが生じていることがあり、こちらの考えた通りのセットを製作するためには、説明して納得してもらう必要があります。いつも苦労しますが、「ここは合成でいくけど、ここは演出的にも実際のセットが欲しい」というように決めていきます。いまはアクション系のドラマなどが流行っていますが、原作がアニメーションではあっても役者さんが実際に演じるってとこで、リアリティがどこにあるかということだと思っています。

何かが割れる画を撮るにしても、アニメチックな割れ方と、リアリティとしてコンクリートが本当にパラパラパラっと割れたようなテクスチャーが欲しいのかでは全然違います。そのため、サンプルなどをつくりながら、「これでいいですか?」とひたすら確認する作業が続きます。

実際は、映画自体がありえない世界をつくろうとして映しているので、ファンタジーだと思うのですが、演じる中で、そして人間が持ってるイメージの中で何がリアリティだと思えるのかというところを具現化していくのが、デザイナーと実際手を動かして形にしていく私たちです。

同じ作品に携わるみんなそれぞれが持ってるイメージがあるので、ズレがないのかを気にしながら、「これだね!」、「いいものができたね」と言い合えるまで慎重に取り組んでいます。そして、同時にやりがいを感じる部分でもあります。

 

─ 美術製作における安全管理

撮りたい世界があるというのは分かりますが、それをどうやってつくるか、高さのあるセットであれば安全に私たちが上までネジを一つ閉めに行かなくてはいけないので、どのようにしたらできるかも含めて考えなければなりません。

先日もどうやってセットを建てればいいのか困ったことがあり、登って行って私たちも作業しなくてはならないので、「14メートル級の高所作業車を使って作業させてください」とオーダーして、理解していただいたこともあります。

 

─ 仕事の面白さに飽きず、やりがいを感じる

作品ごとにつくるセットがまったく違うので、すごく面白くて飽きません。古い時代の作品だったりすると「次はやったことがない分野だ」と思って、楽しんでいます。

ディティールをどこまでつくり込むかはデザイナーが判断するのですが、例えば古いという印象があっても、その当時を描いているので、あんまり古めかしくしすぎないよう、デザイナーのさじ加減ではありますが、みんなで「こういう解釈でいいんじゃないか」と考えを持ち寄っています。

また、完成したセットは、光の当て方によっても変わるので、「こんなふうに当ててくれたんだと思えるような世界観で映っているときもあれば、セットがよく見える方から当てて欲しかった」というときもあります。公開されて実際に目にするまで分からないので、撮影された映像がこのように仕上がるんだということが多くあり、チームでつくっていると感じます。「決められた一辺倒の感じではなくて、こうなったんだね!」と思える点もとても面白く感じています。

 

参加者の感想

参加者がアンケートに答えてくれましたので、回答の一部を紹介します。

 

─ 工場見学で印象に残っていることは?

*スタジオの多さと広さ、高さに圧倒されました。スタジオの4Fから見せてもらった風景は中々体験できない事でしたのでとても印象に残っています。小道具部屋は古いものから新しいものまで、何でも揃っていて管理が大変そうだと思いました。

*7スタジオの見学をした際、大道具さんのお仕事と建て方を見せていただけたのが印象に残っています。普段スケッチアップというソフトを用いて、3Dで空間の見え方を検証・提案していますが、撮影するためのセット(空間)であるため、壁や天井が取れる仕様にする点が、まさにスケッチアップで壁や天井を非表示にしてアングル確認することと共通していると感じ、見え方(映像やカット)を意識して作っていくのが大変面白く感じました。

 

─ 今後の業務に活かせるような学びはありましたか?

*美術製作部の近藤さんのお話しを聞いて、私自身も常々思っていますが、常に確認を取りながら進めていくという事が大きなミスを防いで良いものができあがっていくんだと思いました。

*美術製作部の近藤さんのお話の中で、監督さんのリアリティへの考え方をヒアリングし、それぞれのイメージをすり合わせながら合致させていくということでしたが、まさにデザイナーもその通りだなと思いました。
カフェといってもそれぞれイメージが違いますし、いかに目指す空間の認識を近づけていくかに労力をかけるのは当たり前のことだと再認識できました。

*以前、東宝映像美術さんには什器工事でお世話になりましたが、内装工事関係もできるとのことでしたので、什器だけでなく内装工事などでも施工依頼・相談ができたらと思いました。

 

東宝映像美術 製作現場見学を終えて

見学させていただいた映像美術の製作現場は、ディスプレイ業界とは“別業界の仕事”と思われる方が多いのではないでしょうか。今回の見学を通して、共通点がいくつもあることを知ることができました。

一つめは、施工中の安全管理の配慮です。作業員さんたちがケガをしないように安全な足場計画を立て、仮設資材の準備などはほぼ同じレベルで考えて実行されていると感じました。

もう一つは、空間の見え方に配慮する点です。その空間を“使うお客様”への配慮、空間を“観るお客様”への配慮という意味では少し対象が違うように感じますが、そこに“リアリティ”や“快適さ”、“クオリティ”を求めるという意味では、両者に強い共通点を感じずにいられません。短期間で解体することが前提という点は、展示会の仕事に類似しているとも言えるでしょう。

このコラムを通じて、東宝映像美術では、様々な形態の施工に通ずるノウハウを蓄積されていることを知っていただけたらと思います。例えば、“塗装工事”について言えば、わたしたちがテナントなどで通常施工している“ローラー塗装”や“吹付塗装”の技術はもちろん、テーマパークなどで行われる“特殊塗装(エイジング塗装・ウェザリング塗装)”なども東宝映像美術では施工することができます。多様な技術を施すことができるという点では、業界内で突出しています。

FRP造形やモルタル造形なども行っているそうなので、「これ、どうやってつくればいいの?」や「こんな造作、つくったことがないからどうしよう」といった状況が生じたときには、ぜひ相談してみてはいかがでしょうか。

東宝映像美術という会社が得意とする領域や、特殊な施工技術を保持していることを深く知る貴重な時間と体験をありがとうございました。


株式会社丹青ヒューマネット

児玉 芳久

東宝映像美術を代表するゴジラ

 

関連コラム

2021年に東宝映像美術を取材した際のコラムもよろしければご覧ください。
案内してくださった長濱さんや、お話を伺った近藤さんが映像美術の仕事を選んだきっかけなどについて紹介しています。

映画のセットをルーツに、CMやレジャー施設までを製作。 (東宝映像美術)/10代のみんなへ伝えたい、空間づくりの仕事 Vol.6

 

株式会社丹青ヒューマネットは、「働く人を応援し、幸せになる」をミッションとし、建築・インテイリア業界へ人材を輩出しています。人材のことで課題をお持ちの企業様、新しい働き方をお探しの方はこちらへご連絡ください。


 

お問い合わせフォーム 

 

> 丹青ヒューマネット 新卒採用ページ
   エントリーを受付けています。 既卒者も歓迎。 

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

 

求人情報