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職人の手作業が生む「ツキ板」の美しさに触れる 天然木ツキ板メーカー・北三 工場見学レポート

取材・文:堀合俊博 写真:中川良輔 編集:丹青ヒューマネット
公開日:2022/11/16

空間づくりの業界で活躍する人材を送り出している丹青ヒューマネットでは、社内のデザイナー・施工管理者を対象とした勉強会を実施しています。

空間づくりで使用されるさまざまな建材や家具がつくられるまでの過程を知ることは、より良い現場での判断やクライアントへの提案につながります。図面や画面越しに得た情報だけではなく、実際に目で見て学び、肌で感じたことを仕事に活かしてほしいという想いから、本勉強会はスタートしました。

本記事では、7月に実施した菊川工業での第一回に続き、天然木のツキ板を製造する北三(ほくさん)株式会社で実施された、第二回目の工場見学の様子をお伝えしていきます。

 

 

木材の美しさと機能性を兼ね備えた「ツキ板」の魅力

第二回目の勉強会のテーマは「ツキ板」。鉋で薄く木材を「突く」ことに由来するツキ(突)板は、建築物の内装をはじめ、家具や楽器など、幅広い用途で使用されています。

ツキ板は、天然木による模様や柄という視覚的な魅力があるだけではなく、使用される基材の種類によってさまざまな機能があります。基材は合板や金属、ガラス、不敷布などと幅広く、曲面加工性や不燃性、耐久性、造形性など、種類によって性能は異なります。天然木の美しさと機能性が両立できることこそ、建材としてのツキ板のなによりの魅力です。

デザイナー・施工管理者にとってツキ板は、図面上や施工現場で当たり前のように扱う素材のひとつではありますが、わずか0.2mmの薄さに仕上げられた一枚のツキ板ができるまでには、作業員や職人の方々の高い技術力が注がれています。

今回の勉強会は、加工現場の熱を直接肌で感じることはもちろん、製造プロセスを知ることでツキ板への理解を深め、デザイン・施工管理の仕事における提案の幅を広げるために、天然木のツキ板および化粧合板、化粧シートの製造を行う北三株式会社にご協力いただきました。

 

国内最高水準のツキ板メーカー・北三

 1924年(大正13年)に創業された北三株式会社は、世界ではじめて0.2mmの薄さの切削を実現した国内随一の建材メーカーです。

見学場所となった茨城工場は、野球のグラウンドが5面分ほどある62,000平米の敷地があり、サッカーコート3面分にあたる20,000平米の建屋が並びます。1964年に設立されたこの工場では、現在約130名の方が働いており、敷地の約5倍の面積にもなるツキ板が毎月切削されています。

建築家やデザイナーによって特注された同社の製品は、国内のさまざまな建物の内装や家具、インテリアに使用されています。代表的な事例のひとつである東京農業大学・アカデミアセンターでは、吹き抜けの空間すべてにツキ板が使用されています。同じ材種かつ同じ柄の素材を揃えるためにも、数年前から物件に合わせた材木の調達が行われました。

同じアカデミアセンターの本棚では、役割によって基材の異なるツキ板が採用されました。強度が必要な部分にはMDFを基材に使用し、壁面には不燃素材を使用した「バンシャット」、曲面部分には「サンフット」が使用されています。基材を使い分けることで異なる性能を発揮すると同時に、同じカバ材のツキ板を使用することで、統一した空間に仕上げられています。

東京都日の出町公民館の使用事例では、林業に従事する地元の職人への理解を深める建物として、地場産である多摩杉からつくられたツキ板が使用されています。公民館として災害時に利用されることも視野に、基材に不燃素材が使用した「バンシャット」が採用されました。建築基準法を満たすための機能性と、本物の木の存在感を伝える美観を備えた、ツキ板の魅力が発揮された事例です。

施工事例
左:農大アカデミアセンター
右上、下:日の出町公民館

 

ツキ板ができるまで:職人による手作業の過程を見学

ツキ板や北三の歴史について解説いただいた座学中の様子

茨城工場で通常取り扱われている材種は約30種類ほど。毎年12月から4月にかけて、海外の銘木市場にて買い付けられてきた丸太が集められ、加工がはじまるまでの間、ひび割れとカビの発生を防ぐために、水を噴射し続けた状態で保管されています。

「土場」と呼ばれている原木の集積場。おもな種類は、製品としての需要の高いホワイトオークやウォールナットを中心に、ヨーロッパから買い付けられたアッシュやメープルなどがあります。

北三の製造過程は大きく二つに分けられます。一次加工では、切削からはじまる一枚のツキ板ができるまで過程が行われ、二次加工では、製品の性能に合わせた基材への貼り付けや、塗装・着色による化粧合板・化粧シート製品としての仕上げが行われます。

フリッチについて解説中の様子。

まず丸太からツキ板を切削するにあたり、「フリッチ」と言われる柱状の木材にするための「木取り」が行われます。木取りによって板目や柾目といった木目の現れ方が大きく異なり、最終的な価格が決定されるため、職人による長年の経験が必要な作業です。

職人による「木取り」の様子。買い付け時と同じ職人が担当しており、原木の状態から木目を予測する熟練の技術が必要とされます。

フリッチは、加工する上で十分な柔らかさにするために、煮沸槽の中で1〜2週間ほど浸されます。煮沸後、切削用の刃を傷つけないよう皮や節などを取り除く作業が行われ、木材は切削機へと送られていきます。

木材の煮沸槽。木の種類によって温度は異なりますが、通常は90℃ほどのお湯で煮沸し、灰汁を抜くことで木目が美しく現れます。

切削機には、一枚ずつ薄く刃で突いていく「スライサー」と、桂剥きのように回転させながら切削する「ロータリー」があり、仕上がりの木目や柄によって使い分けられます。切削された木目に刃こぼれがないか、一枚ずつ慎重な確認が行われます。

スライサーによる切削の様子。

切削を終えたツキ板は水分を含んでいるため、低温で乾燥させる「真空高周波乾燥機」や、ドライヤーのように温風で一枚ずつ乾かしていく「ネットプレス乾燥機」によって丁寧に乾燥させ、一次加工が完了です。

二次加工ではまず、裁断されたツキ板が隙間なく基材に貼り付けられていきます。接着剤の塗布と同時に、職人の目と手による精緻な確認作業が行われ、ジョイント部分の重なりや隙間が生じてないよう、細心の注意が払われます。

貼付作業の様子。髪の毛一本分の隙間でも、のちの着色において線が残ってしまうため、同じ種類の木材で隙間を「埋木」する必要があります。

最終工程では、検品による研磨作業や着色、塗装など、オーダーメイド製品としての仕上げが行われ、二次加工が完了します。

光を当てることで、ジョイント部の重なりに影ができていないかを確認します。

 

「北三の技術を継承していくことが、工場長としての使命」

北三株式会社の茨城工場で工場長を務める大久保佳宏さんに、普段のお仕事や工場長としてのやりがいについてお話しいただきました。

——工場長として普段はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

私たち生産部門において、品質管理がもっとも大切なので、工場長としては現場にまめに顔を出し、お客様のご要望通りの製品がつくられているのか、もしくは納期が守られているかを確認して回るのがおもな仕事です。

私は生産部からの叩き上げではなく、20年ほど営業の経験を積んでから工場長になった経緯があるので、お客様の要望をきちんと現場に伝えることを大切にしています。一人ひとりに声をかけながら、現場の安全とスタッフの体調に気を配ることも大事な仕事ですね。

——北三での仕事のやりがいをお聞かせください。

われわれの仕事は、なかなか企業名が表には出ないことが多いんですが、著名な建築物や、誇りに思えるような大きなプロジェクトに関わることができる経験がたくさんあります。

国立の建築物や企業の本社ビルなど、大きなプロジェクトとなると数千平米もの木材が必要なので、ツキ板の素材選びの段階から完成までに2、3年かかる場合もあります。完成後にみなさまからお褒めの言葉をいただけたときには、苦労した甲斐があったなと感じますね。

——ツキ板という素材の魅力と、今後の課題についてお聞かせください。

天然木は、人間の暮らしの中で温かみやくつろぎを感じさせるものなので、今後も使われ続ける素材だと思います。本物の素材を使った商品の需要というのは必ずあるので、われわれはそれに応えるツキ板をきちんと提供していきたいと考えています。

一方で、われわれが扱っている樹齢100〜200年の木材は、徐々に数が減ってきている現状があります。ツキ板は、1本の木から使用できる数が無垢材よりもはるかに多いため、木材を有効利用できることが魅力だと考えていますが、現在当社では、天然にこだわる商品に加えて、柄や模様などをデザインした象嵌細工や人工杢などの商品にも力を入れています。

また、当工場では端材や歩留まりとなった木材をバイオマスボイラーの燃料として使用しているので、引き続き脱炭素社会の実現にも貢献していきたいですね。

工場としては今後、人材の育成に取り組んでいきたいと考えています。われわれの仕事は人の手による作業がとても多く、機械化ができないものばかりです。職人の先輩からも後輩へと技術を引き継ぐこと、そして北三のツキ板技術を後の世代に継続していくことが、工場長としての私の使命です。

 

丹青ヒューマネット 参加者インタビュー

工場見学を終えた感想を、丹青ヒューマネットで施工管理者として働く八木さんと、デザイナーの米田さんにお聞きしました。

——本日参加されてみていかがでしたか?

八木:
ツキ板の製品を手に取ることは日常的にありますが、実際にどのようにつくられているのかを今回知ることができたのは貴重な経験だと思いました。今回学んだことは、社内のいろんなスタッフたちに知ってもらいたいなと感じています。

まだ経験の浅いスタッフこそ、工場で働いている方々の熱量や、仕事にかける誇りや責任を感じることは、施工管理の仕事をする上でとても有意義なのではないかと思います。

米田:
普段のデザインの仕事では、あたりまえのように図面で「ツキ板」と書いていたんですが、今回具体的にどのようにつくられているのかをはじめて知ることができました。製造過程はもちろん、その中で携わっている方々や、作業員や職人の方々の熱意を感じましたし、ひとつひとつ手作業で行われていることを知ると、普段気軽にいただいているサンプルも大切にしなくちゃと感じました。

上司からは、工場見学や展示会にはなるべく行くようにと言われるんですが、実務が忙しく、なかなか時間がつくれないことが多いので、こういった機会を設けていただけるのはうれしいですね。間近で加工現場を見ることができるのはなかなかないので、やっぱり実際に見て学ぶことがいちばんだなと感じました。

——今後の仕事にどのようなことを活かしたいと感じましたか?

八木:
工場で働かれている方の姿を見て、品質チェックの精度の高さが印象的でした。ツキ板は仕上げ材ですし、製品として世に出していくものなので細やかなチェックが必要なのはあたりまえではあるんですが、普段我々が現場で行なっている確認作業よりもはるかに高い精度だなと。製造業と施工管理とでは仕事の種類は異なりますが、自分の仕事への姿勢を見つめ直す機会になりました。

米田:
最近は環境に優しい素材やSDGsに配慮した素材を使うことが求められることも多いですが、今回ツキ板という素材を深く理解できたことによって、これから積極的に施主さんにこの素材を勧めていきたいと思いました。天然木よりもコストが抑えられますし、実現性が高い素材としての可能性を感じています。

——今後の勉強会への期待をお聞かせください。

八木:
施工管理の現場で扱うことが多い、金物工場の見学に行けるとうれしいですね。普段はすでにできあがった製品を組み上げることしかできないので、製造工程を知りたい気持ちがあります。

米田:
木材はツキ板のほかにも、フローリングや家具といったさまざまな種類があるので、それぞれの製造過程を見てみたいなと感じます。実物を見る機会の少ない製品の工場見学に行けるとうれしいですね。

 

工場見学を終えて

壁紙や化粧シートなど、昨今は加工技術の向上によって、木目調の内装材が使用される場面が増えてきました。一方で、「本物」志向の顧客が集まるハイブランドのショップなどでは、本物の素材、本物の無垢材を使用した空間デザインが生む不揃いな魅力や、経年変化によって生まれる風味が求められています。

量産が可能な建材と、一点ものの天然無垢材。どちらかに優劣があるというわけではありませんが、今回の勉強会で学んだ天然木のツキ板の魅力や高い性能は、今後の空間づくりの仕事において、適切な素材の選択につながるのではと思います。

工場見学では、通常の0.2mmのツキ板だけではなく、オーダーによっては0.5mmや1.0mmの「厚突き」の製品をつくる場合があるとの解説がありました。厚みを増すことで無垢材に近い仕上がりが得られると同時に、ツキ板の特徴である、基材の性能を活かした建材としての使用することができます。こういった知識は、「本物」が求められる現場での提案の幅を広げるでしょう。

デザイナーや施工管理者にとって、素材についての知識は武器となり、あらゆるリスクを回避する防具にもなります。豊かな知識は発想力を生み、デザイナーとしてのより良い提案や、クオリティの高い施工管理へとつながります。これからも多くの職種の工場見学を実施し、さまざまな知識を吸収する場を設けていきたいと思います。


株式会社丹青ヒューマネット

児玉 芳久

 

 

株式会社丹青ヒューマネットは、「働く人を応援し、幸せになる」をミッションとし、建築・インテイリア業界へ人材を輩出しています。人材のことで課題をお持ちの企業様、新しい働き方をお探しの方はこちらへご連絡ください。


 

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