デザイナーの資質を活かした働き方を実践する、インターオフィスのデザインチーム「IDS」 /企業インタビュー vol.1
取材・文:堀合俊博 写真:葛西亜理沙 編集:丹青ヒューマネット
公開日:2022/09/05
空間づくりに携わる企業の経営者やデザイナー、施工管理者の方々に、空間づくりへの想いや仕事のやりがい、働き方について伺う新たな連載シリーズをお送りします。
第一回目の今回は、1983年の創業以来、日本のオフィス空間づくりに取り組み続けている「インターオフィス」で働く3名のデザイナーにお話をお聞きしました。
ヨーロッパを中心とした輸入家具の販売からスタートした同社は、空間デザインや場づくりに特化した社内のデザインチーム「IDS(inter.office design studio)」にて、オフィス空間を中心としたインテリアデザインを一気通貫で手がけています。
デザイン本部執行役員の米倉則明さんと、デザイン課の課長を務める西田浩二さん、デザイン課の廣瀬萌さんに、IDSでの働き方についてお話しいただきました。
家具の輸入販売から空間デザイン事業へ
––インターオフィスの事業のこれまでの歩みを教えてください。
米倉則明さん(以下、米倉):
インターオフィスは、スイスのモジュラー式ファニチャーブランド「USM」の輸入販売代理店として1983年に創業し、その後スイスの「Vitra」やドイツの「ClassiCon」といったヨーロッパを中心としたブランドの家具を日本に紹介することで、日本のオフィス空間の質の向上に寄与してきました。
本社を東京デザインセンターに移転した1992年頃から、家具の販売だけではなく、インテリアデザインや内装工事といった空間をトータルでデザインする事業にも注力するようになり、現在に至っています。
オフィスを中心に、昨今では教育施設や公共施設、商業空間などの空間設計も手がけ、フィールドを拡大しながら活動しています。
––インターオフィスにおけるデザイン本部の役割ついて教えてください。
米倉:
デザイン本部は、インテリアデザイン課をはじめ、弊社が扱っている輸入家具のカスタマイズや特注造作家具を制作するプロダクトデザイン課、施工管理を担うコンストラクションマネジメント課、案件の進行管理を担当するプロジェクトマネジメント課、社内外への情報を発信する広報企画課の5つで構成されています。
現在20名ほどのスタッフが働いていて、プロジェクトのはじまりから、デザイン、施工管理までを一気通貫して担当できるメンバーが所属しています。
デザイン本部は、これまでコントラクト事業部をバックアップする組織という位置付けでしたが、昨年から「IDS(inter.office design studio)」という名称で、インターオフィス内のデザインチームとして活動しています。
最近では案件の中でデザイナーがリードしていく場面もかなり増えてきているので、家具の提案業務はこれまで通り行いつつ、今後はよりデザイナーが主体となるプロジェクトを手がける組織にしていこうと考えています。
西田浩二さん(以下、西田):
インターオフィスは、世間では我々のルーツである家具の輸入販売のイメージがまだまだ強いので、クライアントや設計事務所に対して、販売だけではなくデザインもできることをアピールしていきたいと思い、IDSとしてのポートフォリオを作成することにしました。
コラボレーションを通して、空間のコンセプトをデザインで表現
––IDSがこれまでに手がけられたお仕事を教えてください。
米倉:
日鉄興和不動産が運営するシェアオフィスで「WORK AND WONDER WAW」の日本橋店が、2019年の10月に竣工しました。コクヨのデザインチームである「YOHAK DESIGN STUDIO」との協業プロジェクトとして、インターオフィスはインテリアデザインを担当しています。
施設のコンセプトは、「オフィスにOPENNESSとWELLNESSを。」です。クライアントおよびYOHAK DESIGN STUDIOのメンバーとディスカッションしながら進めていったプロジェクトで、協業だからこそできるクリエイションにチャレンジできた案件でした。
クライアントである日鉄興和不動産の新しい事業のプロジェクトのため、新しいシェアオフィスの在り方やコンセプトをネーミング、グラフィックデザイン、空間デザイン全ての面で考えていく、おもしろい仕事でしたね。
西田:
川崎にある東芝のオフィス内の空間デザイン事例です。東芝のスマートコミュニティセンターのエントランスフロアの一部を改修し、クライアントや社内の他部署との共創活動が生まれる新しい拠点をつくるプロジェクトで、昨年2月にオープンしました。
インターオフィスは、インテリアデザイン、家具のセレクトから造作家具の設計、施工に至るまでトータルで関わっています。
計画場所が、オフィスビルのエントランスホールで、天井高も高く、堅い印象の空間だったので、有機的な形状の壁やステージ上の床を挿入することで、既存の雰囲気と対比させるように場をつくっていきました。
空間内に配置してあるホワイトボードは、既製品の中でプロジェクトに合うものがなかったため、オリジナルでデザインしています。共創活動においてホワイトボードは重要なツールなので、細かいところにまで検討を重ねてつくりました。
このプロジェクトでは、まさにプロセス自体が共創そのもので、発注者と設計者という関係性を超えて、クライアントや協力会社とは同じ目的を持ったパートナーとして進めていきました。
週1回の打ち合わせでは、どんな空間をつくり、どんな使い方ができるといいのかを、3、4時間かけてとことん話し合いましたね。
デザインに関しても、我々から一方的に提案した案を承認してもらうのではなく、クライアントである東芝のデザイナーと一緒にサンプルを検討していくなど、一緒につくり上げていきました。
僕自身、自分にはないアイデアを対話の中で見つけていく仕事が性に合っているので、いい経験ができた案件でした。
廣瀬:
千葉県柏市にある、三井不動産が展開している賃貸形式の研究施設「三井リンクラボ」内に東京大学の藤田誠先生の研究室を設計するプロジェクトで、インターオフィスは家具の提案および造作家具のデザインを担当しています。
内装設計は別の建築事務所の方が担当されていたので、内装のモジュールに合わせて、家具のサイズや色を仕上げていきました。
パーケットのピッチと造作家具の目地を揃えて、床からそのまま家具が立ち上がっているような印象にすることで、内装を引き立てる造作家具としてデザインしています。
家具への理解を深める環境づくりと仕事のやりがい
——IDSで実践している、職場の環境づくりについて教えてください。
米倉:
家具の輸入販売から創業した企業として、デザイナーたちが家具への理解を深めることができる取り組みを行っています。
代表の寺田(尚樹)も、「それぞれの家具が生まれた時代背景やデザイナーについて理解した上で提案しなさい」とよく言っていて、寺田から家具の歴史についてのレクチャーを受けることがありますし、メーカー主催の勉強会や、海外の工場やオフィスに視察へ行く機会もあります。
新しいプロダクトについてデザイナーから直接説明いただけることもあるので、貴重な経験ができていると思います。
廣瀬:
勉強会のほかにも、家具を納入した後に、実際にその空間を見学しにいく機会もいただいています。会社としてそういった時間を大切にしてもらえるのはうれしいですし、インプットした情報が仕事のアウトプットにもつながっているのを感じます。
西田:
オフィスに各種ブランドの家具やプロダクトがあり、実際に使いながら働いているので、そうした体験を通したインプットの機会は他社と比べても多いと思います。
自分が関わっているプロジェクトに本当に合うものは何か、それぞれの特性を理解した上でクライアントに提案できることは、インターオフィスで働くデザイナーの強みだと思います。
——インターオフィスのデザイナーとして働く中で感じているやりがいについてお聞かせください。
西田:
シンプルにお客様に喜んでもらえた時が、なによりいちばんの喜びですね。自分が関わった空間が使われている様子を見るのもうれしいですし、竣工してしばらく経ってからその空間に足を運んだ際に、あくまで“普通“に使われている様子を見ると、きちんとその空間が受け入れられてよかったなと感じます。
米倉:
次の依頼につながることが仕事への評価だと思うので、案件を重ねていく中で、クライアントと信頼関係を築いていくことにやりがいを感じます。
クライアントをはじめ、一緒に空間をつくり上げていく施工者の方々や、僕らの描いた図面をもとに作業していただける職人の方々など、すべての人が「やってよかった」と思えるプロジェクトを目指すことで、デザイナーとしての役割を果たしていきたいと考えています。
パーソナリティを前提に、自立したデザイナーを育てる
——IDSが求めるデザイナーの人物像はどのようなものですか?
米倉:
変化し続ける時代において、複雑な課題をどのように解決するのかが求められる中、デザイナーが課題解決のためにできることはたくさんあると思っています。
IDSでは、クリエイティブ面で優れているだけではなく、ロジカルな視点も同時に持つことを大事にしていて、クライアントと価値観を共有し、共感を得ることができるデザインチームにしていきたいと考えています。
西田:
「かっこいいから」という理由で家具が売れていた時代から、場や空間を、どういった考え方で、どんな使い方をするのか、きちんと説明する必要がある時代に変わってきています。
空間づくりにおいても、以前はお客様のご要望がある程度決まっていることがほとんどでしたが、「そもそもどういった空間にするのか」というところから議論する案件も増えてきているので、デザイナーの職能が今後どんどん価値を持っていくはずです。
——今後、インターオフィスに入社する方にはどんな働き方をして欲しいですか?
米倉:
業務を切り分けることはせずに、案件を通してすべての仕事を経験してほしいです。図面作業だけをしている状態にならないように、クライアントとの会議への参加や提案書の作成、プレゼンテーションまで、ディレクターと一緒に同行することで、一通りの経験値を積んでもらいたいと思います。
デザイナーとして必要なスキルを一通り備えた上で、お客様ときちんとコミュニケーションすることができれば、デザイナーとして自立した働き方ができるようになります。IDSでは、独立しても活躍ができる人材を育てながら、長く一緒に働くことができる関係性や環境づくりを心がけています。
西田:
自立したデザイナーたちが集まることで、組織としての価値も生まれてくると思うので、そういった状態を目指していきたいです。
——IDSが求めるデザイナーの人物像をお聞かせください
米倉:
それぞれのパーソナリティを活かして仕事をしていきたいと考えているので、まずは、「自分自身が何をしたいのか」という考えを持ったデザイナーに入社して欲しいですね。
もちろん、自分がやりたいことだけではなく、会社として目指すべき方向性についても一緒に話し合いながら、お互いにとっていい関係性を築いていきたいです。
業務範囲をはっきり分けて考えている会社ではないので、領域を限定せずに、主体性を持って仕事の幅を広げていける人はきっと活躍できると思います。
米倉:
デザイナーとしてのスキルの積み重ねはもちろん重要ですが、パーソナリティや本人の資質を前提としながら、ロジカルな仕事ができるようになることが、デザイナーとしての個性につながります。
IDSという組織づくりを通して自立したデザイナーを育て、これからもチームで空間づくりに取り組んでいきたいと考えています。
——COMPANY PROFILE
日本のオフィス空間の向上を目指し、1983年に創業。ヨーロッパ製の高品質なオフィスファニチャーの輸入販売を主軸に、オフィスやパブリックスペース、教育施設、個人邸宅などの建築設計やインテリアデザイン、ファシリティーマネージメントを手がける。
「ワークスタイルの変化に敏感に対応し、最適解のオフィス環境を提案すること、その提案は常に美しいデザインであること」を理念に、時代に即した機能的で快適な空間づくりをサポートしている。
また、2015年よりオフィス家具メーカーの「イトーキ」とのコラボレーションブランド「i+」の展開をスタート。2020年には世界中のインテリアプロダクトを集めたオンラインストア「MAARKET」をオープンし、2021年から家具のサブスクリプション&デザインサービス「Fittingbox」を展開している。
> 株式会社インターオフィス
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