岡安泉/ 照明デザイナー - withコロナ。これからの働き方を探る Vol.6
コロナ(COVID-19)が世界的に猛威をふるい、わたしたちの働き方、生活も変化を余儀なくされました。オフィスには出社できず、多くの会社がテレワークにシフト。
急激な変化に対応するなかで、「働く人を応援し、幸せになる」をミッションに掲げる丹青ヒューマネットは、改めて働くことについて考えてみたく、建築・デザイン業界に従事されている方々にお話しを伺っていきます。
NEWoMan新宿
文:吉岡奈穂 取材・編集:石畑和恵(丹青ヒューマネット)
公開日:2020/09/25
withコロナ。これからの働き方を探る
--PROFILE
1972年神奈川県生まれ。1994年日本大学農獣医学部卒業。
生物系特定産業研究推進機構を経て1999 年より 2007年まで照明器具メーカーに勤務し、2007年岡安泉照明設計事務所を設立。
建築空間・商業空間の照明計画、照明器具のデザイン、アートインスタレーションなど光にまつわるデザインを国内外問わずおこなっている。

1.日々どのようなお仕事をされていますか?
——照明にまつわるすべてに携わる、照明デザイナー
照明デザイナーとして、空間ができあがるまでの照明にまつわるすべてに携わる仕事をしています。
コンペの段階で企画立案から参加することもありますし、クライアントが描いたコンセプトをオリエンテーションしてもらって照明プランニングをすることもある。日常使いのダウンライトから特注のシャンデリアまでプロダクトデザインもしますし、メーカーのカタログから照明器具を選んで並べて仕上げていくということもある。
いずれにおいても照明が必要な場所、照明があったらより良くなる場所について、クライアントと一緒に考えながら、最善の照明プランを実現する仕事です。
建築の形態は、商業施設、公共施設、オフィス、住宅、展示会やインスタレーションと多岐に渡ります。照明デザイナーは前面に出てくることは少ないのですが、検索すればさまざまなデザイナーが出てきます。
2.なぜその職業を選んだのでしょうか?
——照明デザイナーを求める声に応えていまがある
もともと目指していたというよりは、気づいたら照明デザイナーになっていたという感じです。
大学では農業工学を学び、卒業後は農林水産省の外部団体の研究所に就職して、エンジニアとして機械開発の仕事をしていました。
6年後に転職をしたのが、創業したばかりの社員3人の会社で、美術館や博物館などの照明器具の設計・組み立てを手がける町工場のようなところ。そこで照明器具の図面の引き方を覚えたり、電球やレンズ、反射鏡などの設計から組立梱包までをしていました。
その頃、同世代の建築家に照明プランを提供することを始めた流れで、自然と仕事を発注されることが増えてきて、「照明デザイナーになってほしい」という声が寄せられはじめ、そのまま独立したという経緯です。
アトリエを主宰している建築家は新しいことに挑戦したいという意気込みがあるので、従来の照明を並べるだけでは満足できず、光から一緒に作ってほしいという方がたくさんいたんです。
3.仕事の面白さはどんなところですか?
——さまざまな印象の世界を作れる面白さ
照明から空間を作るのは面白いです。
照明の最大の目的は、安全な明るさを担保すること。その上で、明るさを均質にしたり、抑揚を持たせたり、空間が持つストーリーやコンテクストにあわせて、さまざまな印象の世界を作ることができます。すべての物体は光が反射することで色が見えていて、光がなければ黒になります。
もともとエンジニアだったこともあって光の特性は理解できますし、ある程度までの合理性は詰められるんですよね。それらを基本に、素材、色調、何をどう反射させようかを考えて、器具や器具の配置の図面を引いて、ほしい光を作って、ほかにはない空間をかたちにしていくのが面白いです。
照明だけではなくて意匠も手がけますが、これはゆったりと自由に手を動かしたりして、直感的にやっているかも。自分が内装設計したバーもあったりします。
——照明を通した新しい暮らしの提案をしたい
照明がLEDになったことによって、IT系のものと相性がいいので、新しい暮らし方を提案してみたいです。
家族みんなにMy照明があって、自分が座る場所の環境をそれぞれが心地よく調整できるなど、照明、センサー、電波などを組み合わせて、いろんなものが選択できる仕組みを実現したいですね。常に自分にくっついてくるロボットライトのようなものも可能かもしれない。
技術的なところでは、電気を「交流」ではなく、電力のロスが少ない高電圧の「直流」で送電する「高電圧直流/高圧直流送電(High Voltage Direct Current:HVDC)」が一部で使われ出しているのですが、これが一般家庭にまで普及すると、コンセントが消え壁そのもので充電できるなど、家庭内の配線の意味が丸ごと変わってくる。
そのような新しい技術にも注目していきたいです。
渋谷東しぜんの国こども園
5.コロナ禍によって仕事や働き方に変化がありましたか?
——進行中のプロジェクトに直接の影響は特になく
展示会がいくつか中止になったことぐらいでしょうか。
事務所スタッフは緊急事態宣言が出るよりだいぶ早めにリモート対応しましたが、ちょっとしたことを伝えるのが手間で、自分がやったほうが速いかなとなり、僕の仕事量は増えてしまったかもしれません。
また、基本的に仕事の電話は事務所の固定電話で受けていたので、電話番の意味でも一人だけ出勤していました。
6.今後どのような変化が起きてくると思いますか
——誰もが経営者レベルになることが求められる
仕事に対する取り組み方が変わってくると思います。大学を出れば誰でも就職ができて、会社に入ってから頑張ればいいというようなことは崩壊し、サバイバル能力が高い若者が社会に出てくるはずです。
ここ最近、ゼネコンや大手企業に就職したいという建築科の学生が増えていて、安定を求める傾向があると聞きましたが、さすがに今回のことで誰もがいま一度考えざるを得なくなった。
企業も人件費を減らしたいだろうし、優秀なプレイヤーが少数精鋭で高い生産性を上げていって、ひとりひとりの責任が増していく未来を目指すと思います。
会議にも発言しないでただ出席しているだけの人は不要で、口を開く2〜3人だけがいればいいということになるでしょう。誰もが経営者レベルになるイメージです。
いまの日本はデジタルトランスフォーメーションがさまざまな分野でなされていなかったり、コロナウィルスのワクチン開発も中心にはいられなかったり、留学先に選ばれなくなってきていたり、物価が安くなっていたりというようなさまざまな問題が顕在化していますが、ある意味、国が生まれ変われるチャンスだと捉えています。
写真提供:CAt 渋谷ストリーム
——世界で戦い、外貨を稼げる知能労働者
僕自身は、常に刺激を与えあえる人と働きたいです。ただ、求められる人材としては、ひとりでも生き抜ける人たちではないでしょうか。そのような人たちが集まって、会社を作っていくと思います。
シリコンバレーでは何らかのリスクを取ってでも新しいことをやりたいという在学中の人材を企業がオファーすると聞いたことがありますが、それぐらいしないともう先頭を走る会社は存続できない。
世の中にはさまざまな仕事があり、職業に貴賎はありませんが、自分が知能労働者の道を選んだのならその責任をしっかりと果たし、知能労働者として世界で戦い、外貨を稼ぐという覚悟を持った人材が切実に求められると思います。
——一生懸命やって、自分の楽しいを見つけること
建築家の西沢大良さんが母校の高校生に向けて書いた「天職との出会い方」の内容がとても良かったんです。
数学者を目指していたところ、圧倒的にレベルの高い同級生がいて断念し、悩みながらも建築を学ぶことになったそうですが、やってみたらとても楽しかったと。
やればやるほどスキルが上がって面白くなって、いろんなアトリエでアルバイトをするようになって、先輩のアトリエで10年近く働いてから、自分のアトリエを設立し、現在に至ったのは「たまたま」だったと。
やりたいことや天職なんてそう簡単には決められないから、流れの中で目の前にあることを一生懸命やる。一生懸命やっているうちに楽しいことがわかってくると。
ぜんぜんレベルは違いますが、僕も夢中で研究をやったことがいまにつながっていますし、照明のこともいつの間にか好きになっていました。
コロナによって職住近接どころか、職場=自宅になっている人も多いので、仕事は純粋に楽しくてやりたいものに位置付けられるのが良いのではないでしょうか。
僕自身は自分の価値基準の中で、満たされているか満たされていないかをいままで以上に大切にしたいと思います。満たされていると思える時間が増えることが幸福につながっていくと思っています。
——取材を終えて
私の中の岡安さんは、理系男子だけど、柔らか頭の方というイメージです。光のこととなると理論的に考え、かつ、空間に似合う光を創り出してくれます。
「暗くすると光が活きる」というのは私の中の岡安名言となって刻まれています。
コロナ禍でもお変わりなく、プロジェクトを進めているという件、こういう時だからこそ、困ってしまうと電話をかけたくなる存在なんだろうと思いました。
未来の光がどう変わっていくのか、とても楽しみにしています。
株式会社丹青ヒューマネット
石畑 和恵
株式会社丹青ヒューマネットは、「働く人を応援し、幸せになる」をミッションとし、建築・インテイリア業界へ人材を輩出しています。人材のことで課題をお持ちの企業様、新しい働き方をお探しの方はこちらへご連絡ください。