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丹青ヒューマネット新人研修2025「考える習慣を育む、空間づくりの実践と学び」

左から 児玉、岡本、佐藤社長、佐々木、小野寺

取材・文:堀合俊博 写真・編集:丹青ヒューマネット
公開日:2025/9/11

丹青ヒューマネットでは、新入社員を対象とした独自の研修カリキュラムを企画し、空間づくりに関する実践的な知識と技術を学ぶために新人研修を実施しています。

入社から派遣先に配属されるまでの約2ヶ月間、施工管理職の基本を知るための座学に加え、ご協力いただく企業のオフィス改装工事を経験することで、新入社員たちが具体的な仕事の進め方や心構えを身につけることができる機会を提供しています。

2025年度の今年は10名の新入社員を対象に、研修にご協力いただいた1912年創業の帽子メーカー・株式会社サトー様のオフィス改装工事を実施しました。本記事では、同社の代表を務める佐藤麻季子さんをお迎えし、新入社員2名と企画者の2名と共に、研修を通じて得られた学びについて振り返った座談会の様子をお届けします。

 

施主とのコミュニケーションを体験する実践的な新人研修

──今回、株式会社サトー様のオフィスで研修を実施することが決まった経緯をお聞かせください。

児玉
株式会社サトー様とは、当社の社長が、「蕎麦打ち倶楽部」(丹青社の福利厚生補助)活動で十数年前から佐藤社長のお母様と蕎麦打ちの先生とクラブ長という関係でお付き合いがあり、昨年実施した横浜工作所様のオフィスでの新人研修をクラブ内でご紹介したところ、今回の研修先としてご協力いただくことになりました。

児玉芳久 丹青ヒューマネット リクルートメント・ソリューション部 部長

児玉芳久 丹青ヒューマネット リクルートメント・ソリューション部 部長

 

──佐藤さんは、今回のお話を聞いた際にどのように感じましたか?

佐藤
もともとオフィスの改装はしたいと思っていたので、まさにぴったりのタイミングだなと感じ、ふたつ返事でお引き受けしました。当社は東日本大震災で工場を失ってしまった経緯があり、風評被害で売却ができなかった工場のミシンを引き取る際に1階と3階を改修していたものの、2階だけが手つかずの状態だったんですね。

このビルは南北に窓があるため自然と光が差し込み、風が流れていくのが良いところなのですが、これまでパーテーションで空間が仕切られていました。まずはそれらを取り払い、ワンルームとして使えるように改装したいと思っていました。

 

──オフィス改修を実際に経験する新人研修は今年で2回目ですが、内容に変化はありましたか?

株式会社サトー 代表取締役 佐藤麻季子

株式会社サトー 代表取締役 佐藤麻季子

児玉
昨年の研修では、われわれが図面を作成し、新入社員は素材の選定から担当していましたが、今年はRevitを使った3D図面の作成から経験しました。さらに、佐藤さんとの打ち合わせも担当することで、施主の要望を汲み取りながら、承認を得るプロセスをミッションとして組み込みました。

岡本
今年は10人の新入社員が二人一組のペアに分かれ、墨出しや仮設、木工など、それぞれの担当を決めてから協力会社との打ち合わせを自らおこなう、昨年以上に実践的な内容になりました。

岡本紗奈 丹青ヒューマネット リクルートメント・ソリューション部

岡本紗奈 丹青ヒューマネット リクルートメント・ソリューション部

 

──2025年度の新入社員であるお二人は、どういった理由で空間づくりの道に進んだのかをお聞かせください。

佐々木
私は高校まで絵画を学び、芸術系大学に進学してからは、プロダクトデザイン学科にて空間デザインを専攻していました。建築分野で使用する3Dソフトウェアについても学んでいたので、自分の強みが活かせる職業として空間デザインの道に進みました。

佐々木草耶 丹青ヒューマネット 派遣先所属:デザインセンター デザイナー

佐々木草耶 丹青ヒューマネット 派遣先所属:デザインセンター デザイナー

小野寺
私はもともと国公立大学の教育学部に進学し、子どもの認知心理学や発達心理学について学んでいました。同時に学芸員資格も取得しており、卒業後に博物館や美術館などの文化施設に携わる仕事がしたいと思っていたのですが、幼少期からものづくりが好きだったので、それらをかけあわせることができる進路としてディスプレイ業界を選びました。

小野寺陽 丹青ヒューマネット 派遣先所属:丹青社文化・交流空間事業部 制作

小野寺陽 丹青ヒューマネット 派遣先所属:丹青社文化・交流空間事業部 制作

 

何度もやり直すことで得られる学び

──具体的な研修内容に関して、まずはどのような作業からはじまったのでしょうか?

児玉
最初は新入社員が改装場所であるサトー様のオフィスに伺い、天井の高さや壁の長さなどを測る「実測」のから始めました。その後、自分たちが測った数値をもとに図面を作成する際に、足りていない情報があると作業の手が止まってしまうんですね。窓の高さやピッチなど、つい同じだと思い込みがちな場所の数値を測っていなかったことに気がつき、それらを補填するためにサトー様のオフィスにまたお伺いする、その繰り返しからのスタートでした。

佐々木
何度も測り直しをしながら、「こんなに把握するべき情報があるんだ」と身をもって学ぶ経験になりました。私のペアは木工に関する部分が担当で、木棚をつくる際に床面からの高さをあわせる「レベル出し」をおこなう必要があったんですが、壁のなかに埋め込むサポートスタッドを担当していたペアと連携しながら寸法を合わせていく大変さを感じました。

小野寺
私のペアは墨出しが担当で、作成した図面を持って協力会社との打ち合せをおこなったところ、「これじゃ墨出しできないよ」と言われてしまい、再度サトー様のオフィスで測り直す必要がありました。ほかにも、今回制作した間仕切りの実測においても、木工と軽鉄を担当したペアとそれぞれ話し合いながら進めていたものの、いざ工事がはじまってから協力会社の方にずれが生じていることを指摘されてしまったんですね。「なんとかなるだろう」と思って進めてしまっていた数ミリ単位のずれが、最終的にはどんどん大きくなってしまい、いかに実測が重要なのかを学びました。

オフィス改装に向けた天井や壁の寸法を測る実測作業の様子

オフィス改装に向けた天井や壁の寸法を測る実測作業の様子

 

──協力会社との打ち合わせはどのように進めていきましたか?

佐々木
まずはお電話してからオフィスにお伺いし、ごあいさつさせていただいたのですが、はじめての経験だったのでとても緊張しました。こちらがお願いしたいことをお伝えするはずが、逆に教えていただくことばかりでした。

天井に付けられていた神棚の移設に関しては、当初は天板をつけて固定するつもりだったところ、「それだとコストがかかってしまうよ」と児玉さんから指摘され、どうすればいいのかを協力会社と相談しながら進めることができました。木棚の制作においても、建材の種類を教えていただき、接着しやすくコストが抑えられる化粧板を選ぶことができました。

神棚移設にあたり検討した図面

神棚移設にあたり検討した図面

児玉
可動棚は、もともと備品が収納されていたラックの代わりとして製作したものでしたが、できれば物販店舗の基本的な壁のつくり方を学んでほしいという思いがあり、佐藤さんに提案して研修内容に取り入れさせていただいた経緯があります。

佐藤
実際にできあがったものを見たら、なんだか収納のためだけではもったいないなと感じ、飾り棚として使用しています。ここは帽子の企画・デザインをする場所でもあるので、こうやって目に見えるところに過去の製品を置いておくことで、企画についてスムーズに議論することができています。これまではわざわざ1階から持ってきていたので効率が上がりましたし、よりアイデアが湧きやすい空間になったと思います。

今回の改修で作られた木棚。現在は飾り棚として活用されている。

今回の改修で作られた木棚。現在は飾り棚として活用されている。

 

一緒に空間をつくり上げていく経験

──今回は佐藤さんとの打ち合わせを新入社員のみなさんが担当しましたが、印象的だったやりとりはありましたか?

佐藤
壁と天井の色に関して、最初は白でお願いしていたのですが、こちらの性格を把握していただき「佐藤さんが本当にやりたいことはなんですか?」とおっしゃっていただいたのが印象的でしたね。たしかに、本当は違う色がいいとは思っていたものの、社員のみんなで使う空間だと考えると、どうしても無難な色を選んでしまっていて、なんだか深層心理をつかれたような気がしました(笑)。

その後、柔らかい雰囲気のオフィスにしたい旨をお伝えしたところ、イメージに近い色を提案してくださいました。このピンク色を選ぶ上で、女性の新入社員さんに「同じ女性としてどう思う?」と相談した際にも、はっきりと意見を伝えてくれたのがありがたかったですね。そういったやりとりを通じて、一緒につくり上げている感覚が生まれていったと思います。

お客様との対話を経て選ばれた天井と壁のピンク色と、空間を遮らない間仕切り

お客様との対話を経て選ばれた天井と壁のピンク色と、空間を遮らない間仕切り

 

──工事がはじまってからはどのような作業を経験しましたか?

佐々木
木工作業は協力会社の方が専門的な部分を担当されていたので、こちらで作業をお手伝いできることはなかったんですが、作業場所の確保や心地よく作業してもらうための準備を心がけました。

小野寺
塗装に関しては自分たちでやらせてもらうつもりで準備していたものの、天井を塗る際に、塗料が垂れて足場が汚れてしまうことを職方から指摘され、きちんと養生した上で作業をする必要があることに気がつきました。現場がはじまるまでにこちらがちゃんと準備しておかないと、職人さんの仕事にも遅れが出てしまいますし、足場はレンタルしていたものなので、汚してしまうと協力会社の方々に迷惑をかけてしまいます。実際に現場でそういった経験をすることで、準備の重要性を実感しました。

 

──佐藤さんは、新入社員の働きぶりをご覧になってどのように感じましたか?

佐藤
新入社員のみなさんが、それぞれの仕事を分担しながら連携して進めていく様子は見ていて楽しかったですね。コミュニケーションにおいてもいい意味で遠慮がなく、心地のいいやり取りができました。丁寧に仕事をされているのを感じましたし、細部にまで気遣ってくださっていたので、きっといい空間になるんだろうなと感じながら作業を見守っていました。

小野寺
現場がはじまるまで何度も実測に伺い、細々と質問させていただきました。その度に佐藤さんは笑顔で対応してくださいました。今回のように自分たちの学びにつなげることができたのは、こちらのことを気遣って対応してくださったからこそだと思います。

協力会社の方も器が大きい方ばかりで、こちらが新人であることを汲み取って仕事をしてくださいました。実際に現場に配属されてからは現場の施工管理者としてみなされているので、もちろんミスは許されないですし、ご迷惑をおかけすることもできないので、こうやって失敗しながら学ぶことができた経験はいまの仕事に活かされていると思います。

 

空間づくりに不可欠な「考える習慣」を身につけるために

──児玉さんは、研修中の新入社員のみなさんの様子をどのようにご覧になっていましたか?

児玉
現場がちょっとしたカオスになっているのを、微笑ましく見守っていました(笑)。実際の仕事や現場でも、さまざまな関係者の意見を取りまとめていく必要があるので、それと似たような経験をしてもらえてよかったと思います。

昨年に引き続き、小さな失敗をたくさん経験してもらうことは、今年の研修テーマのひとつだったんですが、加えて、今回はみんなを答えに導いていくための「ティーチング」と、自分自身で答えにたどり着いてもらう「コーチング」を意識した研修を実施したいと思っていました。

また、研修中に繰り返し伝えていたのは、わからないことがあったときに「どうすればいいですか?」とただ聞くのではなく、まずは自分で考えた上で質問しなさい、ということでした。設計の仕事は、頭のなかにある見えないものを具現化することですし、施工管理者は2次元の図面の情報から3次元の空間を想像しなければならないので、とにかく頭を使わなければ成り立たないんですね。そのためには考える習慣を身につける必要があるので、研修期間中にそういった癖がついてくれていたら、今後の仕事の仕方に活きていくのではないかと考えています。

(左上)壁面パテ処理、(左下)ボード貼りは協力会社から方法を教わり体験。右はトイレ入口

(左上)壁面パテ処理、(左下)ボード貼りは協力会社から方法を教わり体験。右はトイレ入口

岡本
新入社員のみんなが、意見をぶつけ合いながら自分の考えをまとめていく様子を見て「うまく進んでいる。この調子!」と思っていました(笑)、こちらの意向が伝わっていたのかなと感じています。まだ新入社員の同期とそこまで関係性ができていない状態から連携する難しさはあったと思いますが、認識のずれが生じてしまったときにどうすればいいのかを学ぶ機会にもなっていたと考えています。すべてがスムーズに進み、成功体験だけが得られる新人研修ではなく、どうすればいいのかを悩みながら、わからなかったときには周りに相談することを経験してもらえたと思います。

朝礼や塗装・壁面パテ・養生など、工事工程を実際に体験している場面

朝礼や塗装・壁面パテ・養生など、工事工程を実際に体験している場面

 

──佐藤さんは、今回の改装工事を振り返ってみていかがですか?

佐藤
私自身、会社員時代に1ヶ月間の新人研修を経験し、研修期間中に同期と語り合時間があったからこそ、それぞれの配属先でお互い頑張ることができていたので、みなさんにとっても同じような経験が得られる機会になればいいなと思っていました。なによりここは自社ビルですし、失敗を恐れずに、うまくいかないことがあっても安心して仕事をしてもらいたいなと見守っていましたね。みなさんが日々労い合いながら仕事をしているのを見ているのが楽しかったです。

また、せっかく改装していただいた空間を汚すのがもったいなくて、オフィスを土足厳禁にしたんです。靴を脱いでリラックスした雰囲気で仕事ができたほうが気持ちいいんじゃないかと、社員たちからの提案があったんですね。私もこれまでより一時間早く出社して、掃除や整理整頓をしてから仕事をスタートするようになりました。

改修後のオフィス

改修後のオフィスで仕事をする佐藤社長

改修後のオフィスと、そこで仕事をする佐藤社長

 

──新人研修を経て、今後の仕事にかける思いをお聞かせください。

小野寺
施工管理は実際に自分が手を動かしながらつくる仕事ではないので、知識やスキルだけではなく、施主やデザイナーの意図を汲み取り、協力会社や職方の方々に正しく意図を伝えられる力が必要だということを学びました。空間づくりは、そうやってたくさんの方々と協力しながらつくっていく醍醐味がありますし、残り続けるものを作る影響力の大きい仕事だからこそ、これからも携わり続けていきたいと思います。

佐々木
私はデザイナー職ではあるんですが、研修を通じて施工管理を体験したことがいまの仕事に活きているのを感じます。図面を書くとき、ついついツールに頼って作業を進めてしまいがちなところを、「この図面で本当につくれるのか」「寸法は合っているのか」などを考えながら仕事に向きあうことができています。

空間デザインの仕事は、デザインのなかでもいちばん身近に感じられる分野としての魅力を感じます。訪れた人たちにどんな過ごしかたをしてほしいのか、空間にメッセージを込められるのはこの仕事にしかできないことだと思いますし、いつかは大きな空間のデザインをしてみたいです。

 

──最後に、今後の新人研修の展望についてお聞かせください。

児玉
研修を経験したみんなが配属先で活躍できるような、より実践に近い内容にこれからもブラッシュアップしていきたいと思っています。現在建築業界は人手不足で大変ですが、これからはDX化によって空間づくりの道具がさらに進化し、もっと効率よく仕事ができるようになると思うので、業界全体がより働きやすくなってくるのではないかと考えています。もしかしたら今後、施工管理はもっとも脚光を浴びる仕事のひとつになるかもしれないと思うんですね。今後も新入社員に向けてこの仕事の魅力を感じてもらえる研修を実施することで、空間づくりの仕事を継続してもらうきっかけをつくりたいと考えています。

左から 児玉、岡本、佐藤社長、佐々木、小野寺

 

新人研修を終えて

現場初日に指揮命令者から「これやっておいてくれる。」と言われ『はい、わかりました。』と実践できる。
このやり取りのような対応を出来るだけ多くインプットし、そして現場でアウトプット出来る、また日々の研鑽で振り返ることができる新人管理者の育成・教育を目指したい。
先期の冒頭もこのように発信をさせていただきました。「目指したい姿」は今年も変わりません。

昨年は、派遣先のみなさまからも事前の経験・体験としてご好評をいただいており、またコラムをご覧になっていただいている通り、協力いただいた企業様、新人メンバー、そして企画側を含めた”四方良し”のカリキュラムになってきたのかなと喜ばしく思っています。

今期も同様に、来期の計画は既に始まっています。
今回の「考える習慣を育む」や、昨年の「失敗から学ぶ」などディスプレイ業界で働く上での基礎となる教育をこれからも追求し、こちらも毎回のことではありますが、御協力いただいた講師の皆様や配属先の先輩方などにもご意見を伺いながら「新人研修カリキュラム」を更に磨き上げていっていただけることを期待しています。
我々も引き続き、日々研鑽です。


株式会社丹青ヒューマネット

堀内 秀治

 

株式会社丹青ヒューマネットは、「働く人を応援し、幸せになる」をミッションとし、建築・インテイリア業界へ人材を輩出しています。人材のことで課題をお持ちの企業様、新しい働き方をお探しの方はこちらへご連絡ください。


 

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