実寸大モックアップで、工事の過程を立体的に学ぶ ― 清水建設「温故創新の森 NOVARE」勉強会レポート

写真:寺島由里佳 取材・文:堀合俊博 編集:丹青ヒューマネット
公開日:2026/2/26
丹青ヒューマネットでは、空間づくりに携わるデザイナー・施工管理者の人材育成のために、実務に直結する勉強会を定期的に実施しています。2025年12月には、清水建設が運営する共創プラットフォーム「温故創新の森 NOVARE」内の研修施設「NOVARE Academy」の見学会を実施し、座学による講義と同施設内の実寸大モックアップの見学を通して、建物の着工から竣工までの流れをあらためて学ぶ機会を設けました。本記事では、仕事に直結する具体的な知識を学ぶことができた勉強会当日の様子をお伝えしていきます。

「ふるきをたずね、あたらしきをつくる」― NOVARE Academyという学びの場
今回の勉強会の会場となったのは、清水建設が運営する共創プラットフォーム「温故創新の森 NOVARE」内の施設、「NOVARE Academy」です。「ふるきをたずね、あたらしきをつくる」を理念に2023年にオープンした「温故創新の森 NOVARE」では、5つの自立した施設が連携し合い、次世代の人材育成やオープンイノベーションの創出を目指す多岐にわたる活動を推進しています。
中でもNOVARE Academyは、ものづくりの精神と技術を伝える研修施設として、ものづくりの原点を体感できる実寸大モックアップによる研修講座を実施しています。今回の勉強会では、同施設が提供している座学と組み合わせた研修カリキュラムに参加させていただきました。

技術者の使命は、その地に残り続ける建物を作ること
まずはNOVAREアカデミー副塾長の竹谷雅則さんによる講座から、今回の勉強会はスタート。施工管理者として身につけるべき知識や仕事の姿勢について、清水建設にて30年以上の現場経験を持つ竹谷さんが語ります。
建築および空間づくりの現場では、設計者は建築主が思い描く夢や希望を、建築基準法や消防法といった法律と照らし合わせて図面化する仕事を担います。一方、設計者が描いた設計図をもとに工事を進めていくのが、清水建設のような総合建設会社で建築工事を担う施工管理者や、丹青社のようにディスプレイ業として空間づくりを行い、内装工事を主領域とする会社の施工管理者です。「ここで気をつけて欲しいことがあります」と竹谷さんが強調するのは、「設計図通りに作る」ということを、施工管理者はどのように捉えるべきなのかという点でした。

「残念ながら、建設業界において設計図は決して完璧ではありません。作りながら考える必要がどうしてもありますし、その都度設計変更が生じます。施工管理者は設計図に書かれた通りの建物を作ることが仕事ですが、工事を進めるにあたって不具合が生じる可能性がある場合や、使い勝手などが良くないと感じることがあれば、設計者に対して設計変更を申し出る必要があります。設計者はその申し出を建築主と協議し、もっともだと思える内容であれば設計を変更します。このやり取りがとても大切なんです。」
建設業の仕組みについての解説に続き、当日配布された冊子「イラスト『建築施工』」の内容に沿って、計画・着工から竣工までの仕事の流れと、各工程の概要について解説いただきました。竣工前の「足場の解体・外構」のパートでは、長い工事工程の中で、完成を実感できる節目として、施工管理者ならではの達成感が語られる場面もありました。
「我々の中には、足場を解体する時期がいちばん好きだという人も多いですね。それまでずっと足場の内側で作業しているので、カーテンが降りるように足場が徐々に解体されていくと、ようやく建物の全容を眺めることができ、『かっこいい建物に仕上がったな』と、自分たちの仕事に実感を持つことができます。」
座学の締めくくりには、「技術者」として施工管理の仕事に臨む上で欠かせない姿勢についてお話しいただきました。

「30年以上、私は施工管理の仕事の最前線で働いてきましたが、いまだに新しい現場に行くと初めて知ることに出会います。おそらく、施工管理の仕事を完全に理解できるということはないと思いますね。ただ、いくつも現場を経験してきたからこそ、その分の勘を働かせることができますし、知らないことに出会った時でも、どうやって現場を進めればいいのかがわかるようになります。
私たち技術者の使命は、お客様が長く快適に使える建物を作ることです。建物を作るまでの時間よりも、でき上がってからの時間の方が遥かに長いです。建設業界には大変なことが多いですが、建物は我々がいなくなった後もその地に残り続け、人々の役に立ち続けることを忘れないで欲しいです。仕事に誇りを持ち、ものづくりにとことんこだわって欲しいですね。」
実寸大モックアップで仕上げや納まりの実例を体験
座学を終えた一同は、実寸大モックアップの展示エリアへ。NOVARE Academyでは、「RC構造」「S・CFT構造」「PCa・ハイブリッド構造」「鉄道高架橋」「山留め・地下」の5種類のモックアップが展示されており、この日は建物の基礎部分を見学できる「山留め・地下」から体験ツアーを開始しました。

「山留め・地下」のエリアでは、掘削工事の際に建物の敷地や地盤の状況によって土砂が流れ込むのを防ぐ「山留め」と、建物の地下部分を支える躯体が再現された空間の中を進んでいきます。山留めの一種である「親杭横矢板工法」をはじめ、山留め壁を支える「切梁」「火打梁」など、建物の基礎部分と地階部分の施工方法を、実例を通して学ぶことができました。

続く「RC構造」のエリアでは、内装施工における仕上げや納まりの具体例を見学することができます。建物のインフラとなる給排水用のパイプが剥き出しになったスペースでは、丹青ヒューマネットの児玉が、自身の経験に基づく施工時の留意点について補足しました。
「物販などの店舗を担当している人にとっては、こういった配管部分の施工をしたことがないケースもあると思いますが、建物の中のPS(パイプスペース)と書かれた扉の中にはメーターやバルブなどがあり、建物のインフラがチェックできるようになっています。
集合住宅で採用することの多い『転がし配管』では、サドルバンドなどの支持金具を使って、流れを作るための勾配を確保していきます。その時に、メインの排水口までの距離がある場合は、床の高さをあげる必要があります。施工管理者としては、勾配と距離の関係についての現場で勘を働かせなくてはならない場面があります。」



床・壁・天井の下地が剥き出しになった見学エリアに進み、実際の施工現場での経験を踏まえながら児玉が具体的な施工方法や注意点について補足しました。病室を再現したエリアでは、医療施設の施工現場特有の留意点についても触れました。
「病室の施工には特別なルールがあり、用途別のコンセントや酸素を送り込む配管など、一台のベッドごとに設置しなくてはならないものがセットで決められています。施工管理者はそれらがちゃんと図面内にプロットされているかどうか、設計者に確認する必要があります。」

「RC構造」エリアの外側では、石材の仕上げの種類について、本磨き・水磨き・ジェットバーナー&ポリッシュの3種類の表面仕上げの違いを、実際に触れながら確かめることができました。
現場でよくあるケースとして、次のような話も挙がりました。
「磨き方の種類によって、表面の平坦さや艶の出方に違いが出ます。
ホテルや高級ブランドの店舗では、本磨きが採用されることが多いですが、
艶の出方は粒度(番手)によって変わるため、設計者と相談しながら決めていく必要があります。
また、床に本磨きを用いる場合は滑りやすくなるため、
用途や安全面を踏まえて検討することが大切です。」

「S・CFT構造」のエリアでは、消火設備機器のデモンストレーションとして、スプリンクラーと防火扉の稼働時の様子を見学。NOVAREアカデミーの竹谷さんから、改修工事における注意点を解説いただきました。
「一般的な建物の中にはかならず消防用のタンクがあり、火事を感知するとポンプが稼働し、タンクが空になるまでスプリンクラーから水が排出されます。基本的に新築の時点ではすべての床に水が行き渡るようにスプリンクラーが配置されていますが、その後の改築や壁の増設などによって『散水障害』と呼ばれる状態が起こり得ます。なので、レイアウトや改修、内装変更を担当する際には、かならず消防設備士と協議するようにしましょう。」



丹青ヒューマネット 参加者インタビュー ―「何年も先を見据えた空間を作れるようになりたい」

見学終了後、施工管理者として現場で働く石黒さんに、勉強会を通して得られた気づきについて伺いました。
──今回の勉強会の感想をお聞かせください。
仕事現場をそのままくり抜いたような展示がすごいなと思いました。普段は隠れてしまっている配管などの設備を実寸大モックアップで見学できたので、吸収できることがたくさんありました。これまで参加してきた丹青ヒューマネットの勉強会とはまた違った切り口で実際の業務をイメージしながら学べる内容だったと感じました。
個人的に今日の見学内容でいちばん興味を引かれたのが、住居が再現されていたエリアで、キッチンに使用されていた金物の収納でした。おそらくバネや油で調整されていると思うんですが、ダンパーの動きがスムーズで、すっとやわらかく開閉できるのがおもしろいなと。

自分がこれまで担当してきたフランチャイズの飲食店の施工では、蛇口ひとつとっても、何千回と使われることを想定する必要があります。新卒で入社してから5年目を迎え、ようやく基礎が身についてきたところなのですが、自分にとっての次のステップは、細部における自分なりのこだわりを持つことだと思っています。決して作って終わりにするのではなく、何年も先を見据えた空間をつくりたいなと、今日の勉強会を通じてあらためて思うことができました。
──最後に、今後の展望についてお聞かせください。
最近は文化空間を作る部署に配属先が変わり、これまで通り使い勝手の良さについて考えながらも、見た目やデザインなどの面でより一層クオリティが求められているのを感じています。その空間を使う人や訪れる人のことを考えた上で、デザインやビジュアル、使い勝手を検討し、コストや施工性をどのように天秤にかけて対処できるのかは、施工管理者の力量によるところが大きいと思います。

今日は建物に関する基礎をあらためて学ぶことができましたし、これからも基本に忠実でありながら、やるべきことを一つひとつ積み重ねていきたいなと感じています。今日は施工管理としてベースとなる要点を抑えられたので、自分にとっての”セーブポイント”になるような経験ができたと思います。
あとがき
丹青社グループが手がけているのは、建築工事そのものではなく、総合ディスプレイ業としての空間づくりです。私たちの仕事は建物が完成した後、あるいは建築工事と並行しながら、その内部に機能や表情、体験価値を与えていくことにあります。
今回見学したNOVARE Academyの実寸大モックアップは、建築工事を主軸とした内容でしたが、そこで示されていた基礎構造や躯体、設備、納まりの考え方は、私たちの仕事と決して切り離されたものではありません。むしろ、建物がどのような思想と手順でつくられているのかを理解しているかどうかが、内装の計画や施工の質を大きく左右します。
総合ディスプレイ業の施工管理者は、建築・設備・消防・法規など、さまざまな領域と向き合いながら空間を成立させていく存在です。その中で、建築側の論理や制約を正しく理解していることは、設計者や建築工事の施工管理者との円滑なコミュニケーションにつながり、結果としてより安全で完成度の高い空間づくりを可能にします。
今回の勉強会は、「自分たちの専門領域の外側」と「自分たちの仕事との共通点」を知ることで、あらためて自分たちの仕事の立ち位置を確認する機会となりました。建築工事を理解した上で内装を考えること。その積み重ねが、総合ディスプレイ業としての価値を高め、空間全体の質を引き上げていくと、私たちは考えています。
丹青ヒューマネットでは今後も、領域の垣根を越えた学びを通じて、現場で本当に役立つ知識と視点を磨き続けていきます。
株式会社丹青ヒューマネット
児玉 芳久
株式会社丹青ヒューマネットは、「働く人を応援し、幸せになる」をミッションとし、建築・インテイリア業界へ人材を輩出しています。人材のことで課題をお持ちの企業様、新しい働き方をお探しの方はこちらへご連絡ください。








